2009-01-01から1年間の記事一覧

天城越え

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さで麓から追って来た。 私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白(こんがすり)の着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけていた。 この出だし…

伊豆・下田温泉

伊豆の下田に出かけた。下田を訪れるのは、30数年ぶりぐらいだろうか。爪木崎のすいせんが咲き始めている。はるか御子元(みこもと)灯台や伊豆七島が見渡せる。カラオケでの私の十八番の一つ「光進丸(こうしんまる)」(加山雄三)の詩が浮かんでくる。 御…

風と共に去りぬ

GONE WITH THE WIND 「風と共に去りぬ」という訳語がなんとも味わい深い。マーガレット・ミッチェル原作で、ハリウッドを代表する映画として1939年に製作された。NHKハイビジョンでテレビ観賞したのはこれで2回目。最初に見たのは10年ぐらい前だっただろうか…

箱根・彫刻の森美術館

「なんだ、これは!」を探しに箱根に出かける。強羅にある彫刻の森美術館は「なんだ、これは!」の連続だった。 すでに紅葉の季節が過ぎた初冬の箱根、あまり寒さを感じさせない穏やかな天気で、山々の風景がやさしく迫ってくる。 世界で2番目にできた屋外美…

「なんだ、これは!」の精神

『「なんだ、これは!」というようなもので、グーンと打ってくる。それこそ芸術だ』 岡本太郎は芸術家として有名になってからも、そうした「なんだ、これは!」の精神を大事にして、けっして自分を固定せず、常に「なんだ、これは!」で作品を創りつづけてい…

葉山・一色海岸と神奈川県立近代美術館・葉山

トワエモアの歌ではないが、いまはもう秋で、海には誰もいない。9月も終わりの土曜日の朝、天皇家葉山御用邸に近い葉山の一色海岸を歩いた。鵠沼や腰越のような賑やかさはないが、逗子から葉山にかけての海岸は、波静かで落ち着いた雰囲気がある。葉山は海岸…

ザ・ダイバー

世の中に「いじめっ子」が少なくなってきたように思います。英雄といわれる人たちは、多くの「いじめっ子」に鍛えられたのではないでしょうか。 NHK・BSハイビジョンで映画「ザ・ダイバー」(2000年作品)を観ました。わがままだけど信念を貫く男と女のドラ…

梓みちよ

NHKのBS2で「昭和の歌人たち〜いずみたく」(再放送)を観る。 「恋の季節」(ピンキーとキラーズ)や「見上げてごらん夜の星を 」(坂本九)などのヒット曲とともに、「ゲゲゲの鬼太郎」や「伊東に行くならハトヤ」などの、多くの人の記憶に残っている曲を…

さそり座の女

美川憲一の代表曲「さそり座の女」。 この歌が横浜を舞台にしたものだというのを知らなかった。BS朝日の「うたの旅人」で、この歌にまつわるエピソードが紹介された。 横浜・山下公園の近くに、今はない、1929年創業の老舗ホテル「バンドホテル」があった。 ここから「さ…

6月と7月を終えて:チェンマイ訪問記から

このブログのエントリー、5月30日以来になる。今日から8月。月日のたつのははやい。 6月末にタイで開催された、とある国際会議に出席し、7月はじめに帰国してからは、パソコン(PC)に大量の水をこぼしてしまい、すったもんだのあげく、結局新たなP…

『麺道一直線』勝谷誠彦(新潮文庫)

かつて渡部昇一氏(上智大学名誉教授)は、旅先の駅の売店で購入する文庫本で「ハズレ」がないのは松本清張の推理小説だといった。わたくしにとってのハズレのない本は勝谷誠彦さんの紀行の文庫である。 新潮文庫の新刊『麺道一直線』を読んだ。面白い。味わ…

日本の自画像

世田谷美術館で「日本の自画像展」を観る。http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html 戦後日本を代表する写真家である木村伊兵衛、土門拳、田沼武能や細江英公らの総勢11名がとらえた1945年から1964年までの日本をモノクロ写真で写し…

横浜の下町

横浜の表の顔は、みなとみらい地区や中華街・元町地区ということになるだろう。しかし、こうしたエリアでは、辺見庸さんいうところのマチエールを感じることはできない。とくにみなとみらいはそうである。 京浜東北線の海側がハレの場なら、山側はケの場であ…

しのびよる破局

辺見庸さんの新著『しのびよる破局』は、現代人に重い課題を突き付ける。 われわれはいま、人間的な価値の問いなおしを迫られているのではないか。……もちろん今日食うに困る、寝るところもない人たちにとって、そんな悠長なことをいってはいられないというの…

清里の清泉寮でポール・ラッシュの思想と行動を学ぶ

多くの人は平凡な人生を歩んでいくのであるが、なかには全く予期せぬ波乱の人生を歩んで行く人もいる。 サントリーの白州醸造所を後にして、清里に向かった。清里と言えば清泉寮というくらい、ここのソフトクリームは観光の定番といえる。しかし、どれだけの…

サントリー白州醸造所

先日のエントリーhttp://d.hatena.ne.jp/kohnoken/20090321でとりあげた、白州(はくしゅう)の森からの贈り物に会いたくて、山梨県のサントリー白州醸造所に行ってみた。山頂に雪が残る甲斐駒ケ岳から連なる南アルプスの峰々は絶景で、その山のふもとに広大…

変貌する二子玉川

渋谷を出た東急田園都市線が多摩川に差し掛かる地域が二子玉川である。日本で最初の大型ショッピングセンター(SC)として登場した玉川高島屋SCが駅前に店舗を拡張して威容を誇っている。ショッピングセンターと駅をはさんで反対側は、いま大規模開発が…

昭島市の昭和の森

都心から身近な住宅街に思わぬリゾートエリアが広がる場所がある。JR中央線の立川駅から青梅線に乗り換えて10分ほどで昭島駅に到着する。かつて第二次大戦中にダグラス社の飛行機DC3をライセンス製造していた工場と大型のショッピングセンターやホテル…

漫画家「ちばてつや」さんの言葉

日本経済新聞の4月22日夕刊の文化欄に漫画家ちばてつやさんのインタビュー記事が出ていた。ちばてつやさんとは何とも懐かしいお名前である。一般には「あしたのジョー」の作者として有名であるが、私は「紫電改のタカ」のほうが思い出に残っている。 「不器…

礼儀作法入門

山口瞳氏著による礼儀作法を堅苦しくなく書いたものである。酒の飲み方のところの「盃をどう持つか」などは、なるほどと感心させられる。また、次のような文章も味わい深い。 その校長は、こんなことを言った。 校庭に一人だけ、ポツンと生徒が立っている。…

贅沢とは

贅沢はむずかしい。 求めてするそれがさほどの印象を残さないことはあまりにしばしばであり、求めぬうちに転がり込んできたものが、二度と体験できぬ贅沢であったりする。 先日も紹介した、かつて世界を旅する紀行ライターであった勝谷誠彦さんの著書『いつ…

盤根錯節に遭いて利器を知る

連休の初日、朝5時起床。あの「きっこのブログ」が良いことを書いている。「知識という道具」というタイトルで、きっこさんの座右の銘「盤根錯節(ばんこんさくせつ)に遭いて利器を知る」について熱く語っている。 http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/20…

『いつか旅する人へ』勝谷誠彦著の「魔法の水割り」

勝谷誠彦さんの紀行文は面白い。『いつか旅する人へ』は、雑誌『旅』などに掲載された紀行文をまとめたものである。その中に「魔法の水割り」と題して、高田馬場のバー「こくている」のバーテンダー、岩崎智鴻が取り上げられている。 昭和40年代半ばあたりか…

香川京子さんの「私の履歴書」

日本経済新聞の「私の履歴書」欄で女優の香川京子さんが過去の出演映画の話をされている。そこで取り上げられた1枚の白黒写真に目を奪われた。今井正監督「ひめゆりの塔」のワンシーンの写真だ。人物の目に吸い込まれる。そして、あの沖縄戦の悲劇を思い、思…

ジャンクロードボワセ・ブルゴーニュ・ピノノワール

飲んだワインの感想などを記録しておこう。 Jean Claude Boisset, Bourgogne, Pino Noir, 2006 購入価格1,700円 http://www.nishuhan.co.jp/item/wine/bottle/index.cfm?brand=394100&ID=6147 ピノノワール種の赤ワインは、ほどよい酸味で、くせがなく飲みや…

イチロー262のNextメッセージ

3月7日に取り上げたイチローの前著の続編に『イチロー262のNextメッセージ』(ぴあ)がある。2005年の年頭から2007年末までのイチロー選手の印象に残るセリフをまとめたものである。今話題のWBCの第一回大会の際の数多くの名言も収録されている。そのなかで…

花粉の運び手 The Cross-Pollinator

米国IDEO社のトム・ケリーは、『イノベーションの達人!』鈴木主税訳(早川書房)で発想する会社を作る10の人材の特徴を挙げている。人類学者、実験者、花粉の運び手、ハードル選手、コラボレーター、監督、経験デザイナー、舞台装置家、介護人、語り部がそ…

オオイヌノフグリ

家の近所を歩き春を感じさせる草花を探した。あるマンションの植え込みの中に青い小さな花がひっそりと咲いていた。たぶんオオイヌノフグリだろう。 田中修著『雑草のはなし』(中公新書)によれば、多くの植物の花には、オシベが複数本あるのが一般的だ。そ…

イチローの言行一致

WBC韓国戦でイチローにヒットが出て、日本がコールド勝ちした。ここ数試合の打線のつながりの悪さをイチローが先頭でヒットを打ってくれたことで払しょくをしてくれた。圧倒的な点差で韓国を破ったことでファンも選手も溜飲を下げたことになる。 ここであら…

なぜ存在しないのかを問う

You look at things and ask-why? but I dream of things that never were and ask-why not? (George Bernard Shaw) 地域イノベーションをテーマとした国際シンポジウムで、Regional Innovation,Incubation and The Universityと題して講演を行ったケンブリ…