『いつか旅する人へ』勝谷誠彦著の「魔法の水割り」

勝谷誠彦さんの紀行文は面白い。『いつか旅する人へ』は、雑誌『旅』などに掲載された紀行文をまとめたものである。その中に「魔法の水割り」と題して、高田馬場のバー「こくている」のバーテンダー、岩崎智鴻が取り上げられている。いつか旅するひとへ (講談社文庫)
昭和40年代半ばあたりから、ウイスキーの水割りが流行し始めカクテル離れが進む。水割りならバーテンダーでなくてもママやホステスでも作れる。店を持ったバーテンダーにとって水割りの進出は死活問題であった。岩波さんは水割りだってカクテルと思えばよいじゃないか、プロのバーテンダーでなければできない水割りがあるはず、と約2年間悩んで試行錯誤を繰り返す。
ある日なにげなく見ていた新聞の一面に、きれいな渦潮模様があった。洗濯機の広告だった。岩波さんはそれから毎日毎日電気店の店頭で洗濯機の底の回転板を見る。「どうして回転板は中心でなく偏った場所にあるのだろう」そこからスプーンによるステアーにたどりつく。岩波さんは語る。

マドラーだと、中心にしか渦ができない。すると水とウイスキーは同じ位置でグルグル回るだけなんです。スプーンの先端に底をつけ、少し斜めにして回すと、非対称な渦が出来る。渦は、グラスの中をあちこち移動し、その結果水とウイスキーがまんべんなく混ざるんです。

そこから、口当たりがよく、のどごしの良い、甘い「魔法の水割り」が誕生する。
3月9日のエントリーで、花粉の運び手について取り上げたが、目的意識を持っていれば、ふとした異質のものから大きなヒントが得られることがある。イノベーションにはこのことが大切だと思う。
自分でも魔法の水割りを試してみようと思った。