香川京子さんの「私の履歴書」

kohnoken2009-03-12

日本経済新聞の「私の履歴書」欄で女優の香川京子さんが過去の出演映画の話をされている。そこで取り上げられた1枚の白黒写真に目を奪われた。今井正監督「ひめゆりの塔」のワンシーンの写真だ。人物の目に吸い込まれる。そして、あの沖縄戦の悲劇を思い、思わず涙がこぼれてしまった。この演出は何なんだろう。
香川さんは、「ひめゆりの塔」の後に小津安二郎監督の名作「東京物語」に出演する。小津監督について香川さんは次のように語る。

監督は、ある時「ぼくはあまり社会のことに関心がないなんだ。」とおっしゃった。私は「ひめゆりの塔」に出て、女優も社会のことに関心を持たなければいけないと自覚したばかりだったので、ちょっと不思議に思った。しかし、何十年かたち、小津監督の語録に「人間を描けば社会が出てくる。」との言葉を知った。深いお考えから出た言葉なのだとようやく納得がいった。

このことに気付かれた香川さんの感性はすばらしい。なお、「東京物語」について本部ブログでは下記エントリーがある。http://d.hatena.ne.jp/kohnoken/20050829
香川さんは「山椒大夫」の溝口健二監督についても語っている。

安寿はつらい思いをしてきたので、監督さんのアイデアで安寿のメイクは奈良の興福寺の阿修羅像を参考に憂いを含んだ眉と、メイクの係の方に注文された。奈良に行き、初めて拝観したら、恐ろしげな名前と裏腹にインドかペルシャの王子様という表情の少年とも少女ともつかない美しさにほれぼれした。

仏像という異なるものの中から役者のメイクを考える。このメイク一つにこだわる力が映画の迫力を増すことになる。「ひめゆりの塔」の役者たちのなんともいえぬ眼差しは、こうした演出力のたまものなのだろう。