体験と経験(『商業経営の精神と技術』を超えるには)

自宅近くの業務用食品を売るというコンセプトが店名になったスーパーに買物に出かけた。鮮度の良い生鮮品、豊富な冷凍食品の品ぞろえ、世界各地から仕入れた加工食品、そしていずれも徹底した買いやすさを感じさせる価格の商品でコンパクトな小規模スーパー程の店内にあふれている。たまに出かけることもあって、なんとも楽しく、購買意欲も高まってしまう。
業務用という古くからある販売形態に商業のハード&ソフトの最新技術が埋め込まれることで、食品小売業態の一つとして地位が確立しつつある。
人間や組織が生き延びて成長するには,オバマ大統領のかつてのスローガンではないが、「変える(Change)」ことがひつようであることは言うまでもない。

新版 商業経営の精神と技術

新版 商業経営の精神と技術

日本の小売業、とくにチェーンストアの発展をリードし、理論化、人材育成を担ってきた人物に渥美俊一氏がいる。渥美氏は1988年発刊の『商業経営の精神と技術』(現在は新版が発刊済)の中で、商業者のチェンジの5原則を語っている。

1.一番主義
地域一番店のことではない。かつての地方百貨店がそうだった。そうではなく商品ラインごとに圧倒的シェアを確保することである。
2.集中主義
できることから片っ端から片づけるのではなく、もっとも難しがって逃げ回っていたこと、そのこと一つだけでいいから、徹底的にやってみることである。モア(More=もっと)ではなく、チェンジ(Change=変化)することである。
3.先制主義
日本で初めて、世界で初めての商品や事業のことではない。他の業界や他の地域で圧倒的に成功した方式を誰より早く、その業界や地域に持ってきて先にやることである。人類の経験としてすでに多数成功例のあるものをやることだ。
4.経験主義
日本語では経験と体験が混同されている。体験とは個人の追憶の対象でしかない。経験とは、多数の人々が成功と失敗を繰り返し、そこから出てきた公約数としての行動原則のことをいう。
5.目標主義
考えてから、あるいは調べてから実行する。これが重要な行動原則で、ともかくやってみるというのは何か革新的なことのようにうけとられているが、それは根本的に間違ったビジネス方式なのである。

今、日本の小売業だけでなく、世界の小売業はチェーンストア小売業に席巻されている。それはそれで、消費者は食品から豊かさを享受できている。しかし、何か大きなものを置き去りにしてきたようにも思う。チェンジは続く。流通業は渥美理論を超えることが必要だ。