大隈重信演説談話集

大隈重信早稲田大学創立者として知られているが、第8代・第17代の2度にわたる内閣総理大臣として近代日本の設計者として活躍した。今年の3月に岩波文庫から『大隈重信演説談話集』早稲田大学編が出版された。早稲田大学と並び称される私学の雄、慶応義塾大学の創設者・福沢諭吉には「西洋事情」「学問のすゝめ」「文明論之概略」「福翁自伝」など名著が多く、ひろく国民に読み継がれてきたが、大隈重信には著作はなかった。しかし膨大な数の演説の口述筆記が残されている。それが今回、岩波文庫というコンパクトな書籍として一般国民の手に入りやすい形で出版された。
https://amazon.co.jp/dp/400381181X/
早稲田大学では、出版を機会に、この3月の卒業生全員に本書を配布したという。
その概要は次のとおりである。
1.人生を語る・学問を語る
1)青年に寄せて(生き方の指針)
2)女性へのメッセージ
3)学問の独立(早稲田の学風)
4)教育者たちの思い出
2.政治を語る・世界を語る
1)政治はいかにあるべきか
2)世界のなかで生きる(外交を論ず)
3)東西文明の調和(文明を論ず)
4)理想を掲げて(世界平和のために)
いまから100年前、第一次世界大戦前後の時期に発した大隈候のメッセージから、「進取の精神」と「久遠の理想」の精神を受け取ることができる。
演説の名手で、総理大臣として初めて地方遊説を行うなど、政治の世界に新たな風を吹かせた巨人の言葉は、庶民にもわかりやすく、今日でもみずみずしさを感じる。
2章1項で「政治はいかにあるべきか」について大隈候は語っている。政治ほど面倒なものはないとして、政治を芝居にたとえ、「見物人の目」が大事だと主張する。「政治は国民の反響」であり、国民が幼稚なら、政治家も堕落する。国民が政治を自らのものとして論議し、批判するような社会をつくるべきだ。教育によって「真の国民」をつくらなければならないと語っているのである。
文庫とはいえ500ページに及ぶ大著ではあるが、どこを読んでも現代に通じる珠玉の言葉が並んでいる。
青年、女性、教育者、政治家、国民に的確なメッセージを自らの言葉で伝え、世界情勢、文明論、理想社会という稀有壮大なテーマもわかりやすい言葉で語っている。
はたして、こうした政治家が今の日本や世界に存在するのだろうか。今の参議院選挙の状況を見ると、100年の歴史をたどっていながら、なかなか進歩していないな、というのが感想である。
福沢諭吉の著作が慶応義塾出身者だけでなく、幅広く内外の人々に読み継がれてきたように、本書も広く読み継がれていってほしいと思う。そして、この本を読みながら、今回の参議院選挙では「見物人の目」を磨き上げ、「真の国民」になるべく、集中して努力をしていきたい。