トランプ熱狂、傷ついたアメリカの最強の切り札

ここ数日、米国大統領選に関するコメントを書いている。まだまだ書きたらないことがたくさんある。
●3人のエコノミストの対応
まずは、前々回のエントリーでトランプ勝利を外してしまったと書いた3名のエコノミスト
それは、中原圭介さん、高橋洋一さん、上念司さんの3名である。
中原さんは、結果が出た後、いち早くネット上の投稿で予測を間違えたことのメッセージを正直に伝えられた。そして、この結果により自らが予測している2017年以降の米国や世界経済に大きな影響は与えないと語っている。
中原さんは、近著『経済はこう動く(2017年版)』(2016年11月刊)で、大統領選はヒラリーに収束していくと、冒頭で語っていた。中原さんには『未来予測の超プロが教える本質を見極める勉強法』(2014年刊)や『ビジネスで使える経済予測入門』(2016年9月刊)など、未来予測のプロという意識を持たれているので、専門の経済とは異なる政治の分野とはいえ予測を外したことについて、深く反省をし、真摯に正直にこの結果がもたらす影響について述べられた。
私が中原さんい注目してきたのは、今まで経済分野での予測がよくあたっていたこと、またご本人が文学部歴史学科卒で、歴史や哲学を知ることが未来予測には役に立つということを上記の2著で語られていたからだ。今後の情報発信を見守りたい。
高橋洋一さんと上念司さんは、マスコミでも有名なエコノミストである。Twitter上でトランプ当選を読めなかった要因を今後自ら明らかにしていき、ネット上で発信していきたいと語っている。
当たり前のことであるが、この世界に100%予測を的中させる預言者はいない。だれでも失敗はある。人はその失敗から逃げずに、みずからの予測が外れたことの原因を探り、正直にそのことを明らかにしたうえで、情報公開していくということが、少なくとも政治アナリストやエコノミストの役割であろう。その対応次第で、かの人々に対する信用力は逆に高まったり、低まったりする。
先のエントリーでも触れたが、エコノミストは米国政治の専門家ではない。彼らエコノミストは、米国大統領選の予測にあたり、みずから深い分析を行っていなかったであろう。特定の大学や研究機関の調査を参考にしていたというのは、今までの論説でうかがい知ることができるが、フィールドワークやより深い分析を行っていない。致し方ないといえば致し方ないが、自ら詳細な分析ができないのであれば、信頼のおけるアナリストや調査情報を多面的に検討するなどの方法はあったのではないか。
トランプ勝利を予測した藤井厳喜さんの「勉強が足りない!」の言葉をかみしめるべきであろう。しかし、上記3人の発言の中には、予測をはずした「くやしさ」がにじみ出ている。この負けん気の強さに期待したい。スポーツでも負けて悔しいと思わないプレーヤーは大成しない。
●トランプの主張
そして何より負けん気の強い人物が、ドナルド・トランプである。
2016年の5月に『トランプ熱狂、アメリカの「反知性主義」』(海流社)を著した評論家の宮崎正弘さんは、ネット動画の中で、アメリカ大統領選を取材して次のことを語っている。
書店ではトランプ関係の著作がヒラリー関係本を圧倒していた。各地域の応援演説会では、トランプ候補の会場は満席であるのに対し、ヒラリー候補の会場は数百人程度で空席ばかりであった、という。しかし、マスメディアはヒラリー候補の演説会場の観衆の前方部分を切り取った写真を掲載し、あたかも活況を呈していたような演出を行っていたという。
宮崎さんはまだ予備選のころ、その取材からの帰国する飛行機の中で、トランプ氏の著書
『Crippled America ; How to make America great again』(2015年刊)を読み、トランプの原点は「怒り」であることを知ったという。この本は、日本でも翻訳が『The Trump 傷ついたアメリカ、最後のキル札』(ワニブックス)として2016年7月に発刊されている。
トランプは語る。
「一度何かを決定したなら決して止まらず、投げ出さず、ダウンを取られたらすぐ立ち上がり、勝利するまで戦い続ける。私はこのやり方を生涯貫いてきた。」
同書で語られるメディア、移民と国境、外交、教育、エネルギー、医療保険、インフラ、税金にかかわる主張は、どれもまっとうなもので、「過激な発言」と評されるいわれはないものだ。きわめて的を得た主張といえる。メインストリームメディアが盛んに垂れ流した印象操作、アメリカ国民はそれに騙されなかったといえるかもしれない。
表面的なことだけで、ゼロか100かを決めてしまう風潮は極めて危険である。
ちなみに、日本の大手新聞などの論調を見ると、この期に及んでも負け惜しみを発信しているように見えてならない。反省の気持ちを持たないマスメディアには将来はない。