捨てられる銀行

かつて不良債権処理ばかり注力してきた金融庁は、猛スピードで地域金融行政の大改革に取り組もうとしている。
2015年7月、森信親氏が金融庁長官の座について以来、地方創生実行に向けて大きく舵を切った。「絶対に潰れない銀行を磨き続けることよりも、銀行の先にいる企業の成長や満足度の向上を優先する」という大方針を打ち立てたのだ。
本書では、第1章でこの金融庁の大転換の動きをまとめている。「日本の金融マンはどんどんバカになっていますよ」という声に危機感を感じ、「財務でなく事業を見る」「取引先企業の成長性を分析する事業性評価」「金融の現場が崩れ、経営が崩れつつある現状」「産業あっての金融」など意識改革の状況が語られる。
第2章では、森長官をはじめとしたサポート役の面々のひとりひとりに焦点があてられる。地域活性化を志して広島銀行に入行し、数々の壁を切り開いてきた日下氏を金融庁スタッフに加えるという話。
第3章では、信用保証制度に安住し、事業に対する目利き力を失た金融機関、営業目標や人事評価の問題点が明らかになる。
第4章では、金融庁の方針転換のずっと以前から自らの頭で改革に取り組んできた稚内信金北陸銀行きらやか銀行北都銀行の4つの新しいビジネスモデルが紹介されている。
終章は、森金融庁改革の行方と題して、顧客と語る力を失い「捨てられる銀行」となる現場の動きに警鐘を鳴らしている。
東京の日本橋や銀座周辺を歩くと全国各地の物産を扱うショップが立ち並び、ゆるきゃらののぼりやら、観光ポスター満載である。
そして地元ではイベント開催に余念がない。効果がないとは言えないが、こうした努力は表面的なものにすぎないと思う。またやり方によっては、人目を惹く場所だけに地方のイメージアップではなくイメージダウンになる可能性も高い。
鉦や太鼓で騒ぐ選挙運動が、もはや本質をはずした時代遅れになっているのと同じで、表面的に言葉だけが踊る地域活性化も自己満足にすぎない。
地方創生というと、地元企業と行政ばかりに目が行く。しかし産業を支える陰の主役は金融機関である。顧客である地元企業や地元住民に目を向けず、ひたすら内部志向に陥る金融機関は多い。その責任のいったんは金融行政の過去の方針や厳しい金融検査にあった。
地方創生は国や自治体がやることと責任放棄するのではなく、まずは事業主体がしっかりとした意識を持ち、それを地方金融機関がレベルアップした高い能力を磨いた行員によりサポートする、という仕組みを急ピッチで作り上げないと、日本産業の崩壊が起こってしまう。すでにヨーロッパでアメリカで産業が音を立てて崩れつつあるという世界的な危機の状況の中で、日本産業の踏ん張りどころである。
本書を読むことで、本来の金融機関の役割とは何か。金融行政とは何か。事業活動における金融の役割とは何かという基本を考え直すきっかけになると思う。
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