『五色の虹』三浦英之、集英社、2015年

満州建国大学、卒業生たちの戦後」というサブタイトルがつけられた本書は、2015年第13回開高健ノンフィクション賞を受賞した作品である。
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かつて、中国大陸あった上海東亜同文書院ハルビン学院という日本のトップレベルのエリート養成校にかかわる次の2著を読んでいたので
今回も、興味深く読むことができた。
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満州建国大学は、中国東北部がまだ満州国と言われていた時代、日本政府がその傀儡国家における将来の国家運営を担わせようと、日本をはじめ中国、朝鮮、モンゴル、ロシアの各民族から選び抜かれたスーパーエリートたちを満州国の首都・新京(現在の長春)に集めた教育機関である。
本書は、2010年6月、この満州建国大学の最後の同窓会の様子から始まり、著者である朝日新聞記者の三浦氏が、各地に散らばった卒業生たちを訪ね歩き、各々がたどった戦中から戦後の人生を掘り起こすというものである。
新潟、武蔵野、南東京、神戸という今の日本国内をはじめとして、取材先は大連、長春ウランバートル、ソウル、台北アルマトイに及ぶ。
○神戸の百々氏
「企業で直接役に立つようなことは給料をもらいながらやれ、大学で学費を払いながら勉強するのは、すぐに役に立たないかもしれないが、わが身を支えてくれる教養だ。実際に鉄砲玉が飛び交う戦場や大陸の冷たい監獄にぶち込まれたとき、わたくしの精神を何度も救ってくれたのが、あの時大学で身に着けた教養だった。」○ウランバートルのダシナム氏
「軍隊の知識がなければ政治など何一つ語ることができなかった。軍は国家になくてはならないもの。国際政治は軍事力と相まって事実上成り立っている。」
台北の李氏
「歴史を学ぶということは悲しみに学ぶということである。生産を離れた民族は滅亡する。土から離れてはいけない。」
まさに、激動の時代を生き抜いた卒業生の面々の言葉は重い。
職業記者として、事実をできる限り資料や現場で検証すべく努力する著者の姿勢を文章から感じ取ることができる著作である。南三陸駐在を経て、現在はアフリカ特派員(ヨハネスブルク支局長)を務められている1974年生まれの著者。いろいろと批判の多い朝日新聞のなかで、よき記者魂を失わずに活躍してもらいたいものだ。