Nixson(ニクソン)

正月元旦の夜、BS朝日オリバー・ストーン監督の「Nixson(ニクソン)」(1995年)を観た。当たり前のことだが、ニクソン大統領の仕事と、その前後にあった重要な事件(ケネディ暗殺)についての知識がなければ映画評論はできない。ニクソンは1972年に訪中を実現し、翌年ベトナム和平協定を結び、その後ウォーターゲート事件がきっかけで失脚をする。
一般的にはケネディの人気は高いが、ニクソンはもっとも悪いイメージでとらえられている。日本でもそうだろう。映画の中で、ニクソン自らがケネディ肖像画の前で語っている。
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国民はケネディに理想を見た。しかし、この俺には自分たちの現実を重ね合わせようとしている。

正確なセリフではないが、こんな意味のことを呟く。
貧しいカリフォルニアのレモン農家に育ち、兄弟を結核でなくした上で、弁護士から国会議員となり大統領選や知事選に敗れたのちに、あきらめずに大統領選に再チャレンジして、当選を果たした苦労人である。大統領になるほどの政治家の常として、財界人、FBI・CIAなどの機関、闇の世界とのつながりも半端ではない。それらが、あるときは赤裸々に、あるときは思わせぶりな演出で描かれていく。
ベトナム戦争反対の学生たちの中に入り込んでいき、お互いに意見をぶつけ合うシーンが印象に残る。ニクソンが「ベトナム戦は今すぐには止められない。徐々に解決に向かって努力している。」と説得を試みるが、あるうら若き女子の大学生に「『システム』が戦争終結を許さないのか?」と問い詰められてしまう。ニクソンは、学生たちから離れていく時に、思わずつぶやく。「あの女子学生は19歳にして、ウオール街や軍の影響を察知している。」と。
キッシンジャーを演じた役者は、まったく表情も、体型もしゃべり方も瓜二つ。キッシンジャーは全くの悪役で描かれているが、ニクソンは、キッシンジャーの裏切りを知りつつ彼を許すというところがなんともミステリアスだ。またネルソン・ロックフェラー(ニューヨーク州知事から副大統領へ)も実名で登場している。黒縁めがねで、日本のミッキー安川さん(ラジオ日本でいくつかの番組を持つ)に似ていて、思わず笑ってしまう。
最後の大統領退任記者会見の演説は聞かせてくれる。普段は執拗に大統領を追い詰めた記者たちも真剣に聞き入っている。この最後の演説で、ニクソンの真の姿があぶり出されたような気がする。ちなみに、どこかの国の首相も最後の記者会見で「あなたとは、違うんです!」と気色ばんでしまい、悪い意味で真の姿をさらけ出してしまったのとは好対照である。
アメリカ政治の一端を垣間見た映画であった。オバマの大統領就任が近づいている。この映画を見ると少し、アメリカ政治への見方が変わるかもしれない。