危機対応の構想力と実行力〜東京都知事候補に望むこと

人口、経済力、予算規模などの点から考えて、東京都は世界レベルで見たら中規模国に匹敵するといわれている。その都知事選候補が出そろった。
今回の候補者選びにおいては、何をおいても危機対応能力を選択の基準としたい。といってもわたくしは神奈川県なので投票の権利はないが・・・。しかし、東京都の動静は隣県にも大きな影響を及ぼす。
危機対応能力とは、危機察知能力、危機準備能力、危機対応実践能力などに分けることができよう。
そして、危機として想定されることは、東京五輪に向けてのテロの危険、首都圏に想定される大地震などの大規模災害、そして昨日来報道されている皇室をめぐる動きを考慮に入れた、首都東京のマネジメントである。
そして、中国や北朝鮮との関係次第では、間接的に首都東京がさまざまな影響を受け、国の行政と連携をしていかなければならない事態も想定されよう。舛添騒動のとき、東京都知事に外交の権限はないという批判があったが、その通りではあるけれど、一自治体とはいえ、国際情勢に敏感にならざるを得ない。
1923年に加藤友三郎内閣総理大臣の急死により、総理の大命が下った山本権兵衛が内閣組閣作業中の9月1日に関東大震災が首都を襲った。内務大臣を要請されて拒否を続けていた後藤新平は震災をきっかけに大臣就任を受諾し、9月2日の夜に赤坂離宮の広芝のお茶屋で蝋燭の火の下で親任式、1日で後藤は東京復興の基本方針を練り上げる。9月4〜5日の二日間で「帝都復興の儀」をまとめて浄書、9月6日の午前の閣議で提案した。すべて一人でまとめ上げたのである。それは東京市長の経験が生かされてのことである。
評論家の佐藤健志さんは自ら翻訳されたエドマンド・バークの名著『新約・フランス革命省察』(PHP研究所)のプロローグで、エマニュエル・シェイエスの言葉を紹介して、次のように語っている。
「望ましい社会のあり方を構想する人間を「哲学者」、その構想を実践する人間を「為政者」と定めた。哲学者の責務は、自由で純粋な思考を駆使して真理を極限まで追求し、反発や無理解を恐れずにそれを広める。為政者の責務は、正しい方向性から逸脱しないよう注意しつつ、一歩一歩着実に進んでいくこと」
後藤新平は、哲学者として具体的な構想を練り上げ、為政者として帝都復興の前面に立った。
都知事候補の方々には、この後藤新平の残してくれた遺産に尊敬の念を持ちつつ、どんな危機にも対応できる準備をし、未完と終った後藤プランを踏まえて、新しい首都東京の実現に向けて頑張ってほしいものである。また、東京都民は、構想力と実行力を持つリーダーを育てていってほしいものである。