賢く生きる(藤原肇対談集)

藤原肇さんの本を読み始めて20数年になる。20代の頃はよく読んだ。1980年刊の「日本脱藩のすすめ」(東京新聞出版局)などは、本がボロボロになるまで読み込んだ。結局、日本脱藩はできなかったけれど。著作の多くはマイナーな出版社によるもので、一般の書店では入手しにくいが、Amazonのおかげで古本のネット購入が出来るようになって、最近また時々読み始めた。賢く生きる―藤原肇対談集
比較的最近の著作として「賢く生きる(藤原肇対談集)」(清流出版、2006年刊)がある。10人の賢人との対話集である。第一章の正慶孝(しょうけい・ただし)氏から味わい深く知的な対話が続く。
●対話することの喜悦

正慶:藤原さんが活字にしてきたものとしては、対談が圧倒的だという印象を持ちますが・・・
藤原:そうです。自分と違う考え方をする人と議論して、何かを学んだり閃きの火花が飛ぶのを体験するときに、得も言われない充実感を味わうものです。
正慶:異なる意見を持つ人と出会って見解を述べ、それが討論として正と反のぶつかり合いになり、最後により高い次元で合にいたれば弁証法です。だから古典はプラトン孔子も対話編であり、聖書や仏典も師と弟子の間の対話でして、対話によって人間は常に自分を発見するのです。

●行間を読む

藤原:書いてあることを読む力が衰えた上に、行間を読める人が少なくなっているし、何が書いてないかを読みぬく人は皆無です。読書の楽しみは何が書いてないかを読むことであり、筆者の頭の中を読むのが読書の真髄ですよ。

●時間を消費財と考えずに生産財と考えよ

藤原:若者が誇る知識は理論の基礎になるが、理論は重要でも当てはまらない例も多く、その時には経験に基づく判断力が決め手になる。要するに理論のベースの上にさまざまな経験を経て、教訓として抽出したものが知恵になり、「亀の甲より年の功」が生きるのです。
正慶:時間を生産財と思わずに消費財と考えたために、日本人は消費生活の中に埋没してしまったし、経験の重要性を見失ってしまいました。

●若い時に全身を使って身につけた「しつけ」

藤原:生活の知恵を生み出す上で最も基本になるのは、若い時に全身を使って身につけた「しつけ」であり、この「しつけ」は人生の先輩である、より年をとった世代が、若い人たちに伝える価値あるものです。

●見えないものが大事なんだよ

正慶:『星の王子さま』の中にある言葉ですが、王子が「見えないものが大事なんだよ」と言っており、これは現代に対しての痛烈な批判になっています。17世紀に始まる科学革命以降の文明は、見えたり数えたりできるものだけを扱ったので、見えないものに対して軽視しがちでした。
藤原:最近における場の理論の発達により、見えるものより見えない場の力が重要だとわかったし、部分の在り方は全体的な場によって、支配されていることが明らかになっている。・・・若いアメリカは歴史がないから未来志向で、知恵よりも知識を武器に発展している。

本来の日本人の持つ知恵を忘れつつある時代、知識をベースに知恵を武器として世界に発信をしていきたいものだ。