入船と出船

年末年始、多くの人は職場から離れて家で過ごすことが多くなります。また帰省して実家や親類の家を訪問することも多くなります。
日本の家屋はほとんどすべてといってよいくらい靴を脱いで家の中に上がります。その時の靴の脱ぎ方はどうされていますでしょうか。
日本の伝統的礼儀作法では、家に上がるときは、靴を出船(つま先が戸口向き)にそろえ直して上がります。入船(つま先が上り口向き)のままにしておくのはマナー違反です。
これは知人宅や親類宅、ましてやお世話になっている上司や先輩、恩師宅の訪問などにおいては必須のマナーといえます。
他人様の家を訪問するという機会は全体的に減っていますので、ふだんからこのことを意識していないと、ついうっかりということになりかねません。普段の自宅での出入りのときからこの習慣をつけておくのがよいかと思います。
この秋から冬にかけて大きな話題になった外国人技能実習生の問題ですが、以前にベトナム人20名ほどが暮らしている、ある製造業の寮を訪問したことがあります。そこは玄関で靴を脱ぐ寮でした。ついうっかり靴を入船のまま上がろうとしたところ、同行した監理団体の方から、「すみません。靴は外向きに直してから上がるようにしてください。実習生たちにもそのように指導していますので。」と指摘されてしまいました。その時は自らの無礼に恥じ入りました。
入管法改正でよくいわれました。外国人が増えると日本の文化や壊されていく、と。実は日本文化を壊しているのは日本人自身ではないでしょうか。
日本の伝統や文化を守りたいなら、まず自ら気を引き締めることが大事だと思います。
年末年始は旅館などで過ごす人、忘年会や新年会で座敷を使う人も多いと思います。宴会場や大浴場などで、ついスリッパを脱いだまま出船にせず、中に入ってしまうこともあるかと思います。こういうときも気を付けたいことです。知人・友人などと一緒の際、ついスリッパの整え方で、その人のふだんの礼儀や生活のありかたがみられてしまうのは恐ろしいことでもあります。反省、反省。

評価のモノサシ

「【腕前】お客様は技術を評価してくれない。お客様の要求を満足させているかどうかがモノサシです。」

『仕事ができる人の心得(改訂3版)』小山昇、CCCメディアハウス、2017刊

かつて職場の同僚が会社を退職して転職するとき花束を贈ったことがある。職場近くの花屋さんで花束作成を依頼した。「その方はどんな色が好みでしたか?たとえばよく締めておられたネクタイの色は?」「年齢やご家族構成は?」「その方の特徴を一言で表すと?」という2〜3のやり取りを店員のデザイナーと話した後に、花束を作ってくれた。
見事なまでの同僚の好みの花束に仕上がった。出来上がった花束を見て贈り手の自分も満足したし、贈られた同僚も喜んでくれた。
フラワーデザイナーがどういう資格を持っているかとか、技術のレベルはどうかなどは顧客にとって大きな意味を持つわけではない。重要なのは自分の求めているものを満足させてくれるだけのアウトプットを提供してくれるかどうか、ということだ。
高い技術水準を持っていることは大前提。しかし、顧客の満足を得られない商品やサービスを提供したのでは意味がない。技術はアウトプットに活かされないといけない。
このことは花屋さんに限らず、すべての仕事に通ずることだと思う。

「2020年。それは、21世紀の成人式です」橘川幸夫

「2020年。それは、21世紀の成人式です。」
1980年代、今から30〜40年ほど前。橘川幸夫氏の著作に大いに刺激を受けた。1991年に発刊された『企画書・1999年のためのコンセプトノート』JICC出版局などは記憶に残っている。その復刻版が手元に残っている。
橘川氏は1950年生まれ。今でも現役でメルマガ発信をしている。
今日のメルマガ(橘川幸夫&コンセプト・バンクNEWS )での一言。
「2020年。それは、21世紀の成人式です。」
橘川さんは1980年代に読者参加型メディアの構築に携わり、1990年代後半のインターネットの普及、今日のSNSの普及を預言されていた。
素人のネット上での活躍が本格的に始まった21世紀。2020年は、その点の動きが線になる時だと橘川さんは言う。
「2020年。それは、21世紀の成人式です。」
この一言の重みは大きい。われわれは、どう成人式を迎えるのか。
http://metakit.work/

バーバリーのマフラー

平成30年も師走を迎えて、日々寒さを感じる季節になった。
そろそろマフラーを巻く頃であろうか。
バーバリーのチェック柄のマフラーを今でも使っている。
1990年、今から28年前に初めてロンドンを訪れた時に、このカシミアのマフラーとコットン100%のセーターを買った。セーターも今でも普段着で着ている。
ロンドンでいくらで購入したかは記憶にない。しかし、30年近くたっても着用できているので結果として良い買い物をしたのではないかと思う。
評論家の草柳大蔵さんが、私がロンドンでバーバリーを買った同じ年の1990年に『なぜ、一流品なのか』大和書房という本を出している。
草柳さんは言う。
“一流品とは何か、と問われれば「よい仕事がしてあること」と答えればそれで充分であろう。「よい仕事」とは、
第一に、材料が吟味され、しかも生かされていることだ。
第二に、仕事の仕組みが堅実であることだ。
第三に、使い勝手が良いことである。“
イギリスでも日本でも、この一流の原則を、さまざまな分野で継続して受け継いでいきたいものだと、バーバリーの肌触りのよいマフラーを取り出して思った。

フェイクニュースを見抜く

米国トランプ大統領登場のあたりからフェイクニュースという言葉が世界的に広がった。
マスコミやネットという媒体を通じて、おもに政治にかかわるニュースの真偽がとわれる時代になった。
意図的に人心を惑わす情報を提供する場合もあれば、無意識のうちに偏った情報を提供してしまうこともある。情報提供側の対応と同時に、情報の受け手の側も、いわゆる情報リテラシーを高めなければならない。
情報リテラシーを基礎から高めていく一つの方法として「社会心理学」を学ぶことが有効であろう。社会心理学の認知論の中に「確証バイアス(confirmation bias)」という概念がある。自分が主張したい考えを証拠ずけるために、その考えにあった情報だけに注目したり、その証拠を強調するということである。これはものごとを客観的にとらえるには、陥りやすい誤りである。意図的に「確証バイアス」を活用することもあれば、そのバイアスに自ら気づかないということもありうる。
たとえば、購入した商品の評判をネットで調べようとするとき、自分が購入した商品に対する好評価の情報を選択的にみてしまうということなど、誰もが経験していることである。購入商品に対する悪い評価を避けてしまうという心理行動である。
マーケティング・リサーチは心理学の応用である。そしていわゆる世論調査も心理学をベースにしている。設問の立て方や、調査対象の設定のしかたによって異なる結果が出ることはよく知られている。
フェイクニュース問題は、政治分野だけでなく国際関係、軍事、企業経営分野でも重要となってきている。DIAMONDハーバードビジネスレビューの最新号(2019年1月号)もフェイクニュースを特集している。
フェイクニュースに騙されないために社会心理学の基本を知っておくことは有効と思われる。このための格好のテキストとして『社会心理学』池田謙一他、有斐閣、2010年をあげておく。
www.amazon.co.jp/dp/4641053758/

社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

グローバル化と国際化

先日、最近注目しているブロガーとして、このFBでもとりあげた藤原かずえさん。11月27日のブログを面白く読んだ。
藤原さんの文章は独特である。いくつかの言葉を日本語と英語で並べ、その定義をすると同時に、さまざまな社会現象やメディアでの言説をキーワードで批評していく。
https://ameblo.jp/kazue-fgeewara/entry-12421573665.html
今回のブログ・エントリー「グローバル化を多様性と同一視する深刻な誤解」では次の一節から始まる。

グローバル化 globalization】とは【地球 globe】を一体化することを意味し、国境の存在を無視するものです。国境の存在を前提とする【国際化 internationalization】とは異なる概念であり、国際化の主体が「国民」であるのに対して、グローバル化の主体は「人類」そのものであると言えます。

われわれ何気なく使っているグローバル化と国際化という概念。その違いを明確にしたうえで、最近話題の入管法改正問題を解説していく。
藤原さんは、日本人の選択肢は2つあると示す。
ひとつは、日本という島国で、現在と同じようなレベルで内向を保つことで独自性を保ち、日本人の個性を長時間にわたって維持するという方向。もうひとつは、現在より外向を重視して日本人の個性を捨てて他国と次第に同質化していくか、である。
いずれにせよ、日本人が真剣に考えなければならない二者択一である。
そして、すくなくとも【多様性diversity】という聞こえのいい言葉を乱用する人たちに気を付けよと警鐘をならす。外国人を多数受け入れた場合、多様性ではなく【画一性uniformity】に向かう可能性を図示している。
議論を整理し、感情的にならず、ロジカルに論じていくことの重要性をあらためて藤原さんのブログは教えてくれる。
この外国人労働者受け入れに関しては、まだまださまざまな論点があり、早急に結論を出すことではない。
日本人は、とかく大勢に迎合し、声の大きな人になびいてしまう。声の大きな人の典型がマスメディアであるが、最近は、インターネットの普及浸透により、マスメディアにだまされない人が増えてきているが、まだまだのところもある。
たとえば、外国人技能実習生について、とりあげられることが多いが、ニュースなどで報じられるのは、実習生の失踪の問題や地域住民との摩擦、不当な扱いなどデメリットばかりでメリットについて報じられるケースはまれである。
よく言われる意見に、外国人労働者が入ってくると日本の良き習慣や伝統が破壊されるのではないか、というのがある。
私は数年前、中国大連にある外国人技能実習生を日本に派遣するための教育機関を訪ねて、教室で生徒たちと接したことがある。教育機関では、日本語教育と同時に日本における生活マナーについて勉強する。教室の壁には模造紙で、「ふとんのたたみ方」などが絵で示されている。
はたして、今の10代後半の日本の若者は、正しい布団のたたみ方がわかるだろうか。日本の良き伝統や習慣は、すでに壊れつつあり、外国の技能実習生が受け継ぎ身につけつつある逆転現象が起こっているといったら言い過ぎだろうか。大連で接した学生たちは、眼がきらきら輝いていた。ちょうど映画「三丁目の夕日」で堀北真希が演じた「六ちゃん」のように。