Hillbilly,カントリーミュージックと米国大統領選

●あいかわらず表面をなぞるだけのメディアの解説
すでに米国大統領選も終了から2週間がたとうとしている。
メディアでもトランプ現象と呼ばれる今回の結果の分析解釈を識者と言われる人々が行っている。
もちろん、すべてをカバーできるわけでもなく専門家でもないので普段チェックをする媒体を中心に眺めてみた。
それ以外にも、ここ10年か20年見ることのなかった日曜日の朝のNHKのテレビ討論なども、ものはためしと眺めてみた。
いずれも、表面的なお行儀のよい薄っぺらな評論ばかりである。頼みの綱は、ネット番組の討論や対談、論説だ。
虎ノ門ニュースで人気のある「DHCシアター」、老舗の「日本文化チャンネル桜
しかし、これらもすでに現代では陳腐化しつつある。
以前6月23日や7月14日でとりあげた佐藤健志さんの論説にも期待したが、いつもの鋭さが見られなかった。
藤井厳喜さんや江崎道朗さん、渡瀬裕弥さんの解説は、すでに選挙前に知っているのでたな情報は少ない。
●音楽ライター・川崎大介さんに注目
しかし、ネット上の論説で面白い視点の意見を見つけた。
音楽ライターで小説家の川崎大介さんである。今回その存在を初めて知った。
「日本人がまったく知らないアメリカの「負け犬白人」たち(トランプ勝利を導いたメンタリティ)」というネット上での論考は米国の音楽、映画の動向を探りながら、過去から今回に至る米国大統領選の中に見える米国の人々の心の奥底に潜む心情を探り出している。今、日本のメディアで語られるのは表面的な政治の視点であるが、川崎さんはその政治を生み出す国民の心情、そして大統領候補がいかにこの国民の心をとらえようと努力してかの選挙の裏側を見事に描き出している。それも音楽という視点から。
Hillbillyと呼ばれる白人層。もともとは山に住む白人という意味。川崎さんは、川崎さんによれば日本でいえば「田舎っぺ」「どん百姓」という人々だという。
この人々の強い支持を得ている音楽がカントリー・ミュージックである。アメリカの音楽業界の中心を支えているのが、このカントリーである。
もちろん日本でもジョンデンバーの「カントリーロード」など、人気があるが本場アメリカでは日本人が想像する以上にカントリーが人々の生活や人生に寄り添ってきたという。
たとえば、ガース・ブルックス。アルバム売上ではソロ歌手では米国市場最強で、エルヴィスもマイケルジャクソンも及ばない。米国国内だけで1億3800万枚の販売実績がある。
ショウビズ界はみんな反トランプだという報道は間違っていると川崎さんは言う。
カントリー界の女帝といわれるロレッタ・リン。日本でいえば美空ひばり中島みゆきを合体させたような生きる伝説。
彼女は、コンサートの最後で、かならずトランプ支持を訴えたという。
川崎さんは、大統領選のさなかの今年4月にも音楽の視点から各候補の特徴を語っている。
大統領選にはキャンペーンソングがつきものだ。
キャンペーンというと宣伝という意味にとらえられるが、もともとキャンペーンとは選挙活動そのものの意味である。
トランプはニールヤングなどの曲を演説会場で流し、アーチストから批判を受けたが、その批判で騒ぎを起こすこと自体で話題をさらったという。
バーニーサンダースが採用したサイモン&ガールファンクルの「アメリカ」は技ありの選曲と評価し、ヒラリーは「ポップ界の一流品図鑑の顔ぶれ」を集めたと評している。
杓子定規に政治分析をすることも大事だが、こうした川崎さんのような音楽視点から現代のアメリカの現状を探るというのは、大変興味深い。
日本人にとってアメリカは遠くて近い国。もっともなじみのある国であるが、意外とアメリカ人の心の奥底に潜むものまで知っていない。
最後に、川崎さんは締めくくっている。
「日本版のトランプなんて、明日にでも登場してくるだろう。いや、もうすでにいたのかもしれない。レザーフェイスだって、もういるのかもしれない。ずっと前から、あなたや僕のすぐ近くに。」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50253
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48314