資本主義はなぜ自壊したのか

kohnoken2008-12-22

著名な経済学者である中谷巌さんの新著『資本主義はなぜ自壊したのか』を読んだ。不思議な読後感を覚えている。なるほどというところが5割、そんなに極端から極端へ振れても良いのかという疑問が3割、はたしてこの中谷巌という学者を信用してよいのかという疑問が2割といったところだろうか。説得力のある内容ではあるが、そんなに簡単に宗旨替えしてよいのですか?という感想である。
著者は「まえがき」で次のように語る。

一時、日本を風靡した「改革なくして成長なし」というスローガンは、財政投融資制度にくさびを打ち込むなど、大きな成果を上げたが、他方、新自由主義の往き過ぎから来る日本社会の劣化をもたらしたように思われる。たとえば、この20年間における「貧困率」の急激な上昇は日本社会にさまざまな歪みをもたらした。あるいは、救急難民や異常犯罪の増加もその「負の効果」に入るかもしれない。
「改革」は必要なのだが、その改革は人間を幸せにしなければ意味がない。人を「孤立」させる改革は改革の名に値しない。
かつて筆者もその「改革」の一翼を担った経験を持つ。その意味で本書は自戒の念を込めて書かれた「懺悔の書」でもある。まだ十分な懺悔はできていないかもしれないが、世界の情勢が情勢だけに、黙っていることができなくなった。・・・是非とも大方のご叱正をお願いしたいと思う。

後半の7章で紹介される2008年にOECDが発表した「貧困率」の国際比較は、著者も言われるように「衝撃的」だ。貧困率とは「それぞれの国の勤労者の中で、中位(Median)所得者が稼いでいる所得の半分しか稼いでいない貧困者が全勤労者に占める比率」のことである。資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
1985年再分配前(国家による課税や社会福祉がなされる前の段階)における日本の貧困率は12.5%と先進諸国の中では圧倒的に低い数字であった。それが20年後の2005年には26.9%へと跳ね上がった。これほど急激に貧困率が上昇した国はない。
次に、再分配後、すなわち税金や政府からの所得移転などが行われた後の貧困率では2005年段階では日本は14.9%で、日本はアメリカに次いで世界のワースト2位となっている。
さらに驚くべきはシングルマザー世帯の貧困率である。この場合は他国を圧倒して世界一の貧困度を示している。
この現実を突きつけられると言葉を失う。中谷氏をして懺悔させるだけのインパクトを持つ。今の日本はなまやさしい状況ではない。これらのデータは日本の「惨状」を示している。
経済学者の方々には、その社会的使命を果たしてもらいたい。現状を正しく分析し、正しい処方箋を提示してほしい。たんに理論を理論として解釈するだけではなくて…。
これ以外に、日本の良さの再発見、キューバブータンに学ぶべきこと、還付金付き消費税の提案などがわかりやすく語られている。変わり身の早さとなじられることもあるかもしれないが、この中谷氏の時機を得たすばやい提言は注目に値する。しばらくしたら再びまた宗旨替えということはないですよね。