アルトリ岬

小説『アルトリ岬』の作者は加治将一(かじ・まさかず)さんです。加治さんのノンフィクション作品では、幕末維新の真相を暴いた驚愕の書といわれる『竜馬の黒幕』や、秘密結社フリーメーソンの真実に迫る衝撃作といわれる『石の扉』を読んでいます。ノンフィクション2冊の作者イメージからすると『アルトリ岬』は内容は意外でした。加治さんは作家であると同時にセラピストの顔を持たれていることを知りました。

アルトリ岬 (PHP文芸文庫)

アルトリ岬 (PHP文芸文庫)

相川文弥は、何事にも自信のない中年男だ。平凡な暮らしを望んでいたが、息子はひきこもり、娘は放浪癖、妻からは離婚を突きつけられる。そして突然のリストラ。
文弥は導かれるように北海道の海辺の町へ。やがて家族が合流すると、彼らの前に謎の男が現れ、相川家に「奇跡のカウンセリング」を施す。暮れなずむアルトリ岬で、文弥を包む極限の歓びとは!斬新なスタイルのメンタル・セラピー小説。

これが、出版社がアピールする『アルトリ岬』の紹介文です。
ここに登場する「謎の男」こそが、真の主人公です。小説ですからストーリーや謎の男の正体をここで明らかにしてしまうことは控えます。
いくつかのフレーズを紹介しておきます。

人は、自分の物差しで測ります。使用するのはあくまでも自分の物差し。これが実に便利にできていて、ゴムのように伸びたり縮んだり都合がいい。他人を測ることきは短くなったり、自分のときは長くなったり……

愛情とは、相手の
 過去を水に流し
 現在を称賛し
 未来を応援する
ことです。

大人の決定で、若い兵が死んでいくのだ。たとえ死をまぬがれたとしても深刻な身体障害、神経障害が心身を強烈に蝕む。
兵士が敵を殺して英雄気取りでいられた時代は、もうとうの昔に終わっている。

小説という形態を通じて作者のメッセージが読者の胸に浸み込んでくる作品でした。