『乱れからくり』と推理力

『乱れからくり』泡坂妻夫創元推理文庫日本推理作家協会賞受賞作)を読んだ。
最後まで真犯人がわからない。そして最後のどんでん返し。
推理小説の書き手というのは、本当に緻密な頭脳の持ち主であると思う。
古くはコナンドイルのシャーロックホームズ、松本清張、ドラマでいえば刑事コロンボなど、推理とエンタテイメントの融合はすばらしい。
探偵や刑事たちは、小さな事実の積み上げを行っていく。けっして世間の常識にこだわらない。ロジカルな理論構築、犯人の心理を分析し、結論に導く。そして、その事件解決を重ねることで、周囲の信用を勝ち取り、協力者を増やしていく。その解決者の多くは、過去の人生に、小さな影を残している。不遇のときを経験し、経歴に途切れのある者たちである。
表面的で、軽薄で、無責任で、他者志向で、自ら考えない者たちが多い中で、事実、仮説、検証、失敗、再び事実に向かい合うという科学者にも通ずる人たちが、徐々に登場しつつあるように思える。
安易に世間の風潮に流されず、付和雷同ではない、「推理力」を高めていきたい。そして、この推理力を人物評価の一つの指標にしていきたい。