温故知新と江戸しぐさ

テレビ東京ワールドビジネスサテライトを見ていたら伝統工芸の現代への応用が取り上げられていた。鹿児島の薩摩焼や福井の越前漆器が現代の生活における食器としてどう活かされているか、伝統工芸作家たちと販売する売り手、消費者の関係が描かれていて興味深く見ることができた。

こうしたハードとしての伝統工芸を見直すことと同時に、ソフトとしての思想を見直すことも大事だと思う。最近読んだ本では、『江戸の繁盛しぐさ』越川禮子著(日経ビジネス人文庫)が面白かった。

江戸のなぞなぞに、「恥はかけても絵に文字にもかけないもの、なあに?」というのがある。答はしぐさだという。しぐさは心のあり方でかわる。江戸の住民のリーダーの心がけや身のこなしとして定着した「江戸しぐさ」は、もともとは将軍御用達の大手商人たちを筆頭に、商人たちが一流の商人をめざすための心得だった。

著者は、この「江戸しぐさ」を三つの視点から整理している。言葉づかい、お付き合い(人間関係)、往来しぐさの三つである。
それぞれの江戸しぐさの例を「聞書き」で紹介している。

<伝承のタブー>
人の話に「古い」と水をさすことは、伝承することへの阻害要因とされた。温故知新という言葉があるように、一見、古いことの中に実は今に通じる人間の知恵を見ることが出来る。最初から年上の人の言葉に自分の勝手な物差しで対応してはいけない。

<一事が万事>
江戸しぐさ式の評価のしかた。一事を見ればすべてのことがわかる。人間の行いは、一事が寄り集まって全体を形成しているから、この人は信用できるか、でいないか、仕事をきちんと出来る人か、そうでないか、良い悪いは一瞬で見分けがつく。したがってちょっとしたささいな事でもゆるがせにしないようにとした。

<傘かしげ>
雨や雪の日は、相手も自分も傘を外側に傾けてすっとすれ違う。お互いの体に雨や雪のしずくがかからないようにするとともに、ぶつかって傘を破らないようにする意味も含んでいた。昔の傘は番傘だったからだ。しかし、基本に相手に対する思いやりと譲り合いの精神があってこそできること。

欧米のビジネススクールで学ぶのもよいが、江戸時代の商人道を再発見することも大事だと思う。
江戸商人の思想については、次の二つの著作を紹介したい。
ドラッカーに先駆けた江戸商人の思想』平田雅彦(日経BP社)
『豪商と江戸しぐさ:成功するリーダー列伝』桐山勝(MOKU出版
ここに現代のビジネス道のエッセンスが詰まっている。