世界の経営学者はいま何を考えているのか

医療の世界における現場とは、病院の医師の活動であり、患者の病気を治そうという努力である。その現場を支えるのは、病院スタッフ、医療機器や製薬にかかわる業界関係者、医療研究者達である。ノーベル賞に輝いた山中教授は、ご本人も言われているように現場の医師としては大成しなかったが研究者としては最高の栄誉を受け、今後の医療の発展に貢献した。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

経営の分野で考えるならば、その現場は組織を率いる経営者であり、そのもとで働くリーダー、スタッフである。ドラッカーのマネジメント概念をはじめとして、ボーターの競争戦略、少し領域を広げればデミングの品質管理や、コトラーマーケティングマネジメントなど経営学者も、医療における医学研究者同様に現実の経営に及ぼした影響は大きい。
本書は、アメリカのビジネススクールで活躍する若き経営学者が、最先端の経営学者たちの経営研究のテーマと概要を紹介したものである。

アメリカの経営学者はドラッカーを読まない。
世界の経営学者は科学を目指している。
ハーバードビジネスレビューは学術誌ではない。

という経営学についての三つの勘違いを著者は強調する。
日本人の経営学者が国際的な経営学会の中で活躍していないことを憂えるのと同時に、統計学に依存した現代経営学の問題点を指摘し、経済学・認知心理学社会学という三つの研究分野が経営学の基盤になっていることから、それらの融合が図られていない現状も描き出している。
イノベーションソーシャルネットワーク、リアルオプションなどの概念が経営学の最先端分野でどのように扱われているかを知ることができて、知的興味をそそられた。しかし、著者の考えの底流にある、「経営学は本当に役に立つのか」と問われると、現実の経営現場の後追いを整理しているのに過ぎないという不安がぬぐいきれない。また、統計処理や数理的分析手法が行き過ぎて、経済の実態とかけ離れてしまった経済学がたどった道を経営学が歩んでいるようにも感ずる、
若き経営学者の著者の経営学の現状に対して警鐘を鳴らす問題意識は正しい。

私は、経営学の未来は明るいと思っています。

最後に、こう語る著者の今後の活動に期待したい。