STRATEGIC INNOVATION

STRATEGIC INNOVATIONは米国ワールプール社のイノベーションの軌跡を描いたものである。ワールプール社は日本ではなじみがないが白物家電の大手メーカーで全世界で展開を行っている。洗濯機が有名であるが、サイズが大きく日本の住宅環境に合わないのとともに、日本には国内メーカーがしのぎを削っているため、わが国で同社の製品を目にする機会は少ない。
Strategic Innovation: Embedding Innovation as a Core Competency in Your Organization (Jossey Bass Business & Management Series)1999年CEOのDavid Whitwamは”Innovation from Everyone and Everywhere”というビジョンを掲げ、全社的なイノベーションを徹底する方針を決定した。そしてイノベーション担当の責任者としてヴァイスプレジデントのNancy T.Snyderが任命された。本書の二人の著者の一人でである。全社イノベーション活動の実施に当たっては、コンサルタント会社Strategosのサポートを得た。
ワールプール社が当初掲げたイノベーションの方針は次の五つである。

1.イノベーションは誰でも実行可能なものにならなければならない。
2.イノベーションは製品開発分野だけに限定するものではない。
3.イノベーションはわれわれの企業文化や日ごろのビジネスのひだの中に浸みこむようなものでなければならない。
4.イノベーションは新たなビジネス機会を創造するものでなければならない。
5.イノベーションは永続可能なものでなければならない。

イノベーションをワールプールの企業の中にEmbed(染み込ませる)するために世界の事業所から選りすぐりのメンバー75名を集め、Strategosのサポートのもとで9か月にも及ぶ徹底したイノベーター教育を行った。次のステップではこの75名が25名ずつ3つのチームに分かれて活動を始める。第1のチームは元の職場に戻りその職場でイノベーションを定着させる。第2のチームは新たなイノベーションプロジェクトにアサインされる。第3のグループは社内向けフルタイム・イノベーションコンサルタントとしてStrategosが当初果たした役割を担う。
こうして、75名によって創造されたイノベーションの遺伝子がワールプールの各分野に浸み込んでいったのである。
米国でも日本でも製造業を中心に1960年代に生産性向上や品質管理のための活動が全社的に行われた。今、それらを超えたイノベーションの全社活動が必要な時代になっている。今、米国産業のシンボルともいえるビッグスリーが生死の境をさまよいつつある。金融危機が引き金とはいえ、イノベーション活動が機能していなかったことも失敗の大きな要因でもある。日本企業もこれを対岸の火事として見ているだけでは危ない。