阪急の小林一三

小林一三

立志伝中の企業経営者の中では阪急の小林一三(いちぞう)が好きだ。
最近、作家の堺屋太一さんが日経の「やさしい経済学」で小林一三をとりあげている。

小林は電車(鉄道)を、人と物を運ぶ運輸業ではなく、地域と文化を育てる開発事業と考えていたのだ。彼の描いた「地域開発事業としての電鉄」という概念(コンセプト)は日本独自のもの、小林一三らの独創である。この概念はのちに五島慶太東急グループ)や堤康次郎西武グループ)にも踏襲され、日本特有の郊外生活文化を築き上げた。

経営学マーケティングの教科書でいうところの「戦略ドメイン」の設定を教科書以前に実行していたのが小林一三なのだ。

事業を成功させるには、プロデューサーが「いざとなれば何でもできる」多才さと気迫と人脈を持つ必要がある。反対者も抵抗者も所詮はよりよいものを創りたいのだから、事業が進んでいれば必ず戻ってくる。本当に困るのは、よりよいものを創る意欲と感覚のない傍観者なのだ。小林は、そんな人物だけは口を極めて非難している。

宝塚歌劇の誕生においても小林の事業家としての才能が、いかんなく発揮される。
「何円なら大勢の観客が呼べるか」という価格設定の考え方に始まり、その料金設定を実現させるために「大劇場短時間公演」を考え出し、ローコストの少女歌劇に行き着いた。
一時期低迷した阪急が最近は周辺事業で元気な動きをしている。書店チェーンのブック・ファーストは首都圏でも大きなパワーを発揮し始めた。東京・渋谷の書店では、老舗の大盛堂が閉店し、つい最近は旭屋書店が閉まったのは寂しいが、ブックファーストががんばっている。
阪急コミュニケーションズはニューズウイーク日本版の発行でよい仕事をしているようだ。阪急という名前に胡坐をかかず、小林一三の経営哲学だけは継承し、周辺事業から活性化がなされている。松下幸之助の経営哲学だけを継承し、それ以外のものを根こそぎ変えた中村邦夫社長などもこの流れにあるような気がする。
(画像)小林一三:阪急百貨店ウェブサイトよりhttp://www.hankyu-dept.co.jp/gaiyo/gaiyo1.html