現場力と想像力

2019年(平成27年)大晦日。いつも年の変わりにギリギリに書いていた年賀状はすでに昨日投函し、大掃除ならぬ中掃除も終わり、ほっと一息の大晦日。テレビのNHK・BSでは、黒澤明特集を放映しており、「七人の侍」を観た。何度見ても新しい発見がある名作である。
いくつかのセリフをノートにメモした。
「おぬしの人柄に惚れて、ついていく」
「カネにも出世にもならん「いくさ」だ。今度こそ死ぬかもしれんぞ」
「自分をたたき上げる、それに凝り固まった男だ」
「敵が怖い? しかしな、向こうだってこっちが怖い」
「戦うとき、旗が必要だ」
「もう、大丈夫だというときが一番危ない。みんなに持ち場へ戻れと言っておけ」
本業のかたわらで、二つの大学で非常勤講師をしている。ある大学では「経営戦略論」を教えている。先日の今年最後の講義では「アレキサンダー大王」をとりあげた。経営戦略は、もとをたどれば軍事戦略がベースになっている。経営戦略も軍事戦略も数多くのケーススタディから理論化がなされている。軍事戦略の基本をたどると、東洋では「孫子」、西洋では「アレキサンダー大王」に行きつく。
数多くのヒット作を生み出し、日本のトップ層にもファンの多い歴史作家の塩野七生さんが、著作の最後に選んだのがアレキサンダー大王であった。最新作「ギリシア人の物語?」が、つい最近発刊されている。
日本経済新聞の12月26日の「時論:Opinion」で、塩野さんへのインタビュー記事が一面を使ってとりあげられている。
塩野さんの次の発言にハッとさせられた。
「総司令官が一介の兵士たちのことを一番分かるのは経験したからではない。彼らには想像力がある。経験しないと分からない人は想像力がない。よく下積みをやらなければ下積みの気持ちは分からないと言う。それはトップクラスにはあてはならない。」
「戦後復興に携わった下河辺淳さんが国土事務次官を辞める時、松下電器産業松下幸之助さんに「ぜひウチに来てくれ」と言われた。でもその時に「工場からやってくれ」と条件を出されたからやめた方がいいと考えたといいます。」
「松下さんも下積みをやらないと下積みのことは分からないという考えがあったのではないか。下河辺さんに言わせれば「それくらいの想像力がなくて国土計画なんてやっちゃいられない」と」
今年は、想像力の欠如が目立った年であったように思う。
揚げ足取りに終始した日本の政治状況。本来、想像力を発揮すべきマスメディアがその力を失い、ある新聞などは言論の力を放棄して、一人の作家を名誉棄損で損害賠償を求めるという異常さ。世界に目を向ければ、米国におけるポリティカル・コレクトネスの行き過ぎによる、息苦しい社会の出現など。
凝り固まった思想や考え方が、「想像」力を発揮する人材の「創造」の芽を摘むことがあってはならない。
七人の侍志村喬が演じた島田勘兵衛のリーダーシップ、元・国土庁次官下河辺淳の想像力、アレキサンダー大王のリーダーシップと想像力に学ぶべきと、大晦日の日に強く思った。