気温の低下と農業『アメニティデザイン』

ぐっと冷え込んできた。着るものに気をつけて、風邪をひかないように、暖かいものを食べる…ぐらいが、普通の都市生活者の対応であろう。しかし、気象条件の変化は、さまざまな影響を与える。
たとえば、農業である。それは死活問題につながるのである。
元・東京農業大学の学長であった進士五十八さんは、農民は、あらゆることを熟知しているゼネラリストであり、トータルマンである。だから「百姓」と言われると主張される。

アメニティ・デザイン―ほんとうの環境づくり

アメニティ・デザイン―ほんとうの環境づくり

百は、たくさん。姓は、かばね。職業すなわち能力。農業をやるには、実にたくさんの能力を持っていなければならない。例えば、季節学に通じ、四季の微妙な変化から播種、田植え、草取り、収穫の時期を予測する天気予報官。共同作業が支障なく進められるように村内のつきあいを上手に運び、祭りなどの行事の世話をする。収穫物の出荷時期の予測は値段に反映。現代なら経営学者。…鍬や鎌の角度を使いやすく鍛冶屋に指示する初級物理学の知識がいる。地味に応じて肥料を与え、作目を変える。生長を水をコントロールする。科学、農学、生理学・・・
自然にも、動植物にも、人間にも経済にも精通し、肉体的にも精神的にも人間に与えられた全能力をバランスよく発揮して人生を送った人々。これを「百姓」と呼ぶべきだ。
生まれながらの能力のなかの百分の二か三だけを、サラリーと引き換えに生活する現代サラリーマンやオフィスレディと、バランスよく全能力を発揮できた百姓と、いったいどちらが人間的であるだろう。

ということは、言い換えると職業としての農業はきわめて高度な能力を必要とするものである。なにせ百のことのスペシャリストでないといけないのだから。
オフィスワークに限界を感じ、退職後に農業の分野に進出しようという風潮がここ何年か続いている。農業は牧歌的で、なんとなくのんびりしたイメージがあるのだろう。趣味の農業ならよいが、職業としての農業は想像を絶する厳しい道であるということを覚悟しなければならない。寒い日の朝にそんなことを思った。