夜間飛行

前エントリーで触れた勝谷誠彦さんは夏休みのマレーシア、夏の夜の港町で飛行機の音を聞きサンテグジュペリの「夜間飛行」を思い出したという。それにつられて私も「夜間飛行」を読んでみた。夜間飛行 (新潮文庫)
主人公リヴィエールは南米ブエノスアイレスで航空郵便会社の支配人をつとめる。物語はこのリヴィエールの一夜を描いたものである。この本が書かれたのは1931年。航空機による夜間の物資輸送の黎明期である。

「せっかく、汽車や汽船に対して、昼間勝ち優った速度を、夜間に失うことは実に航空会社にとっては死活問題だ。」

夜間飛行の危険を理由とした世論の反対論に対して、リヴィエールは言う。

「世論なぞは、自分で導けばよろしい。」「経験が法を作ってくれるはずです。法の知識が経験に先立つ必要はありません。」

主人公は新たな夜間飛行による郵便事業の確立に向けて幾多の反対を押し切って自らの職務を遂行する。そして、その仕事に対する厳しさを多くの飛行士たちに伝えていく。
しかし、ある夜に危機はおとづれる。飛行士が事故に遭遇する。その危機に際して退職間近の部下ロビノーが解決法をリヴィエールに進言すると、

ロビノー君、人生には解決法なんかないのだよ。人生にあるのは、前進中の力だけなんだ。その力を造り出さなければいけない。それさえあれば解決法なんか、ひとりでに見つかるのだ。

ビジネスの場での組織の長は、クールに立ち回らなければならない。しかし、危険を伴う仕事ではアクシデントは不意にやってくる。その危険にさらされた本人の家族とも接することが必要になることもある。ビジネス上の非情さと、人間的な温かい気持ちが揺れ動く心理描写がこの小説では見事に描かれている。生死をかけた戦場のリーダーの心理にも通ずるものがある。