いちばん大事なこと-養老教授の環境論

世の中、地球温暖化・人為的CO2原因論の狂想曲と温暖化懐疑・人為的CO2原因否定論の議論が並立状態にある。洞爺湖サミットを前にして、マスメディアでは地球温暖化を食い止めよ、と狂ったかのように情報が流れ出ている。テレビや新聞では温暖化の大合唱だ。一方で書店の店頭では温暖化懐疑論の書籍があふれている。いったいどちらを信じたらよいのだろうか。
世の中の風潮を批判的に見ている論客の一人に養老孟司さんがいる。いわずと知れた大ベストセラー「バカの壁」の著者である。
養老先生の『いちばん大切なこと-養老教授の環境論』集英社新書を読んだ。虫好きの養老爺の教養の深さと広さを感じさせる書である。いちばん大事なこと ―養老教授の環境論 (集英社新書)
日本の「手入れ」の文化、とでもいうべき特徴を導き出す養老爺の視点に感銘を受けると同時に、アメリカ型マニュアル文化批判も面白かった。

マニュアルとは、特定の目的を果たすために必要な手続きを、きちんと定めたものである。だから、相手が変化しない、あるいは単純なときにはうまくいく。しかも、手続きがきちんと保証されていると、人間は安心する傾向がある。だからすぐにマニュアル人間が出来る。しかし、そこには落とし穴がある。手続きをきちんと果たしていると、相手の状態が変わり、目的が変わったときでも、そのことに気づかなくなってしまう。・・・官僚制を考えたら、すぐにわかるであろう。官僚制とは、手続きを制度化したものにほかならないのである。
「手入れ」は、マニュアル化できない。里山の刈り方を、何月何日に下草をどれだけ刈るなどとマニュアル化してしまったら、生き生きとした里山の状態は保てない。「手入れ」の出発点は、相手を認めることである。コントロールすべき対象ではなく、自分と同格のものとして相手を認める。自分が手を入れたら、相手がどのように反応するか、次にそれを知らなければならない。

人間も自然の大きなシステムの一員である。自然システムというのは、ああすればこうなる、という単純なものではない。さまざまな要因が絡み合ってつねに動いているものである。木を見て森を見ず、ということがよく言われるが、環境問題を考えるにあたっても、このことが大事だと思う。
しかし、環境問題についてマスメディアのステレオタイプ的取り上げ方が問題だとしても、そこで多くの人々が自ら考え始めることきっかけになることは意味のあることだ。
養老爺が言われるように、環境問題は「いちばん大事なこと」だ。しかし、だからといって安易にメディアの導く方向を受け入れるのは危険だ。メディアの誤解、稚拙さと同時に、意図的な情報操作も含まれているのだから。