創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦

久しぶりに良書にめぐり合った。今井賢一著『創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦』東洋経済新報社2008年5月刊である。経済学者の今井さんのお名前は1970年代に私が学生時代であったころから存じ上げていた。今は懐かしい岩波の現代経済学シリーズの価格理論1〜3を宇沢弘文小宮隆太郎根岸隆村上泰亮の諸先生と並んで編纂されいた。このシリーズはあの時代の日本の経済学のひとつのエポック的シリーズであったと思う。その書籍もだいぶ前に古本屋にリサイクルに出してしまい、手元には残っていないことを悔やんでいる。
今回、その今井さんの新著をじっくり読むことができた。
創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦

本書は、…ウイーンが生んだ知の巨人、「イノベーション」概念の始祖といわれるそのシュンペーターの思考をあらためて学び直し、彼のいう創造的破壊によって日本が「変化」していくには、どのような道筋がありうるかを私なりに論じたものである。

と今井さんは本書の内容をまとめている。そしてそのきっかけはというとチャールズ・キンドルバーガーMIT名誉教授の大著「経済大国興亡史」日本語版序文(2002)で

1950年代から1980年代いっぱいにかけて輝かしい経済的実績を収めた日本が1990年代になって不調に深くはまり込んでしまい、最近は金融財政政策の古典的な処方によってさえも、かつてのようなダイナミズムを取り戻せなくなってしまったように見える。

という指摘に産業・企業の分析から答えようとしたかった、ということだ。
産業革命が始まり次の情報革命が登場するまでの2世紀を「産業化の時代」と呼ぶならば、その産業化の時代の最終段階において日本産業シュンペーターのいう意味での創造的破壊の嵐を世界に巻き起こした。しかし産業化の成果に対して、日本の情報化の成果は著しく見劣りがする。あえていえば危機的な状況にあると考えるべきかもしれない、と今井さんは危機を募らせる。アメリカの比較優位が鮮明な中で、日本としてはその成果を有効に活用し日本社会の活性化を図るべきとして、IT活用のありかたについて提言をしている。
シュンペーターに始まり、アマルティア・センら経済学の大家の考えをベースに、クレイトン・クリステンセンらイノベーション経営学者らの論考を踏まえつつ、日本語に翻訳されていない数々の英文の古典と現代の論文著作にふれながら、松江のまつもとゆきひろ氏ら新しい動きまで取り込んだ幅の広さには刺激を受けた。