時代を造った作詞家・阿久悠

kohnoken2005-12-30

阿久悠・作詞家生活40周年記念番組(TBS)を観た。あらためて阿久さんの圧倒的な力を感じた。
私は、偉大なるプロデューサーが好きだ。時代に適合するのでなく、時代を造ってしまうほどのプロデューサーを尊敬する。このウイズダム・ダイアリーでも取り上げてきたエジソン小林一三とともに阿久さんも尊敬する一人だ。
マーケティングの世界では良く、顧客の声を聞けとかニーズを把握しろとかいう。阿久さんは、そうした言葉が全く空疎に聞こえるほど突き抜けてしまっている。また、時代が変わるのだから時代に適合せよ、ということもよく言われることだが、作詞家・阿久悠は時代を作ってしまったのである。番組の中で阿久さんは語っている。

たかが、歌と思われたくない。歌は人の人生を変える力を持っている。

1970年代から80年代にかけて、阿久さんの歌で多くの人の人生が変わったことだろう。この時代、阿久さんが活躍した時代はわれわれの生活の中に歌謡曲は欠かせない一部分だった。今は違う。時代が変わったから?そうではないと思えてきた。阿久さんのような圧倒的な力を持った作り手がいなくなり、そうしたプロデューサーを生み出す供給側の仕組みが壊れてしまったのかもしれない。決してユーザー側が変わったのではないように思える。
ここで、個人的な好みから阿久作品ベストテンを選んでみた。

1位:あの鐘を鳴らすのはあなた 和田アキ子
2位:時代おくれ 河島英五
3位:津軽海峡冬景色 石川さゆり
4位:北の宿から 都はるみ
5位:ペッパー警部 ピンクレディー
6位:舟歌 八代亜紀
7位:また逢う日まで 尾崎紀世彦
8位:青春時代 森田公一とトップギャラン
9位:どうにもとまらない 山本リンダ
10位:五番街のマリーへ ペドロ&カプリシャス
次点:ざんげの値打ちもない 北原ミレイ

あの鐘を鳴らすのはあなた」は、阿久さん自身も大きな曲だと言っている。和田アキ子という歌手をも大きく羽ばたかせた一曲だ。
「時代おくれ」は1980年代後半というバブル経済の真っ只中の中で、バブル崩壊後の世界を描いてしまったという予言的な曲である。
津軽海峡冬景色」については、『写真詩集・阿久悠・歌は時代を語りつづけた』のなかでの阿久さんの言葉が印象的だ。

開通した青函トンネルのど真ん中の海底駅の広場でミニシンポジウムを開いたことがある。青森と函館から若手経営者が集まったのであるが、そこで、「津軽海峡冬景色」のおかげで、すっかり暗い街だと思われている、とクレームをつけられた。
ぼくは、暗さと貧しさがイコールの時は、暗さは罪悪だが、もし、暗さと貧しさが同義語でないのなら、現代人にとって何よりのアピールだろうと云った。
悲しみの雰囲気、暗さのロマンティシズムを感じさせる街が作れたら、どこにでもある名物や東京から持ち込んで来たイベントをやるよりは、よほど素晴らしいものであると思うからである。
それにしても、自画自讃になってしまうが、”上野発の夜行列車おりた時から、青森駅は雪の中”という描写は凄いものだと思う。この一行で、映画の四十分ぶんぐらいの人間の説明がなされている。

来るべき2006年を歌うとしたら阿久さんはどんなメッセージを送るのだろうか。阿久さんを継ぐプロデューサーは登場しないのだろうか。
(参考)『写真詩集・阿久悠・歌は時代を語りつづけた』阿久悠・土田ヒロミ、日本放送出版協会(1992年)  ウイズダム・ダイアリー7月30日エントリーhttp://d.hatena.ne.jp/kohnoken/20050730/1122664708
(画像)阿久悠さん http://www.zakzak.co.jp/people/20041202.html