使える弁証法

哲学者は実務を知らない。実務家は哲学を知らない。これが一般的だと思う。しかし、実務を知った哲学者、哲学を知った実務家でありたいと思う。使える 弁証法
弁証法」というと、何か高尚で難解な哲学のようにみえてしまう。
『使える弁証法』田坂広志(東洋経済新報社2005年12月刊)は、この難解と思われるヘーゲル弁証法をわかりやすく、かつ日常のビジネスなどに「使える」手法として解説している。
著者の言いたいことのエッセンスをまとめてみる。

どうすれば、未来が見えるのか。私は、未来を予見するとき、特別な調査や分析は行っていません。「哲学的思索」、使っているのは、それだけです。
弁証法」を学ぶだけで、物事の本質が、わかるようになります。社会の未来が、見えるようになります。
弁証法において「最も役に立つ法則」は、ただ一つ。「螺旋(らせん)的発展の法則」すなわち「物事は、螺旋的に発展する」という法則です。
いま、螺旋階段をのぼっていく人を想像してみましょう。この螺旋階段を遠く、横から見ていると、この人は、螺旋階段を上に登っていきます。すなわち、より高い位置へと、「進歩・発展」していくように見えます。
しかし、この螺旋階段を上から見ていると、どう見えるか。この人は、螺旋階段を登るにしたがって、柱の回りをぐるっと回って、元の所に戻ってくるように見えます。先ほどまで居た場所に戻ってくるように見えます。すなわち、この人は、昔の場所に、「復活・復古」していくように見えるのです。
すなわち、「進歩・発展」と「復活・復古」が、同時に起こる。これが弁証法の最も重要な法則、「螺旋的発展」の法則です。
これから、「懐かしいもの」が復活してくる。それも進歩した形で。
それでは、「何が復活してくるか」を読むには、どうするか。
まず、「何が消えていったのか」を、見る。
次に、「なぜ消えていったのか」を、考える。
そして、どうすれば「復活」できるかを、考える。
それが弁証法の使い方です。

電子メールは、手紙→電話というコミュニケーション手段の変化の中で、もう一度新たな付加価値がついた形で手紙という文字伝達手段が復活した。
コンビニエンスストアは、街のよろず屋さんが復活したものだ。
今、「昭和」、とくに昭和30年代が見直されている。
家族や地域のつながり、生活を一変させる家電製品、人間の精神に訴えるデザイン、そして明るい未来を夢見る人々の前向きな気持ち、などをもう一度思い出そうという動きである。
これを単なる復活・復古に終わらせるのでなく、進歩・発展させた形で、一段上に登って行きたいものだ。