技術系ベンチャーのイノベーション評価法

松井憲一著『技術系ベンチャーイノベーション評価法』ダイヤモンド社(2005年)は、サブタイトルが「成功する事業を目利きする」となっている。技術系ベンチャーのイノベーション評価法
金融機関は永年担保主義でやってきたから、ベンチャーの新たな事業の将来性についての評価ができなかった。既存の企業に対するように経営資源で評価をしようとしても、ベンチャー経営資源が乏しいのだから、やはり事業そのものの評価が行われなければならない。
ベンチャー育成基金の役員という立場にある著者は実務上の課題から、事業性評価のフレームワークを、過去の案件データから実証的に導き出している。また、ポーターやクリステンセン、コトラーなどの大御所の理論もうまく活用している。
検証された仮説は次の5つである。

①市場実績の大きい研究開発型ベンチャー企業の新製品開発成功率は高い。
②市場実績の小さい研究開発型ベンチャー企業において、差別化戦略またはコスト・リーダーシップ戦略の成功率は低く、集中戦略の成功率は高い。
③市場実績の小さい研究開発型ベンチャー企業が集中戦略を取った場合、ハイエンド集中戦略は成功率が低い。一方、ローエンド集中戦略または新市場集中戦略の成功率は高い。
④市場実績の小さい研究開発型ベンチャー企業差別化戦略またはコスト・リーダーシップ戦略を取った場合、企業提携のケースは企業提携なしのケースに比べて成功率が高い。
⑤研究開発型ベンチャー企業が市場実績の大小にかかわらず、ローエンド集中戦略又は新市場集中戦略を取った場合に、ニーズ確認のケースは成功確率が高い。

事業そのものの評価手法の構築が本書の中心テーマであるが、それと同時にベンチャー企業の経営者評価法も提示されている。その中で筆者は「倫理性」を最も重視する。面談などの過程で他人責任主義の兆候を感じたら、いくら事業計画書が立派であってもその案件は審査しないという。他人責任主義の兆候とは、話の調子が良すぎることと、そして恩着せがましい態度が見え隠れしたり筋違いのクレームをつけてくる場合などである。
まだ荒削りのところがある事業評価手法確立であるが、第一歩は踏み出された。これまで金融機関による事業性評価手法が十分でなかったことには、あらためて愕然とする思いがする。評価理論の構築をして「事業の目利き」を一人でも多く増やさなければならない.
誤った評価法や無手勝流では、育つものも育たない。かといって甘やかしていては後になってダメージが大きくなる。厳格なリスク意識を持ちつつ、愛情を持って育成に励むこと、これはどの世界にも通ずることのように思う。