『模倣される日本』

70年代から80年代にかけて、日本経済の力強さを礼賛する本がはやった時期があるが、今は影を潜めてしまった。経済ということでは、最近では中国やインドを礼賛する動きが続いている。
『模倣される日本』浜野保樹祥伝社新書、2005年)は経済ではなく、日本文化が世界を席巻しているという日本文化礼賛論といえる。日本文化の中でもとくに、映画、アニメ、料理、ファッションに注目をしている。映画「キルビル」は深作欣二の手法を謝辞を持って引用し、日本アニメは世界を席巻し、寿司をはじめとした日本料理も本格的な広がりを見せている。模倣される日本―映画、アニメから料理、ファッションまで (祥伝社新書 (002))
ところで、本を読んでいると、その本論とはちょっと外れた枝葉の記述のところに変に感心させられることがある。この本でそう感じたのは次の2箇所である。
ひとつはスティーブジョブスの長袖タートルネックの話、もうひとつは宮崎駿のファン増加の秘訣の話である。
ティーブジョブスは言うまでもなくアップルコンピュータの創業者で、今もなおipodの人気でアメリカを中心としたメディアでの露出も多い。彼の写真をみるとほとんどが黒い長袖のタートルネックだ。これはイッセイミヤケのものらしい。それも数百着も特注で頼んだらしい。クリエイターというのは、道具にこだわるものだが、同じ服を数百着も持つほどこだわるのかと驚いてしまう。
宮崎駿(はやお)は、アニメを通じて子供たちに次のことを伝えたいと思っている。
「自然と触れ合いなさい。実体験で学びなさい。幅広い年齢層のさまざまな人たちと触れ合いなさい。」と。
しかし、そうした優れた作品を作れば作るほど、子供たちはディスプレイに釘付けになってしまう。あえて宮崎は子供たちに次のように言っている。
「僕のアニメーションを見るののは年に一回でいい」
作者として子供を思いやる自戒の念が、さらにファンを増やしてしまうという悪(?)循環となるのだという。
ジョブスも宮崎駿も良い意味の「わがままさ」を持っていると思う。