『成城石井の創業』日本経済新聞出版社

スーパーマーケット成城石井はローカルな食品スーパーとしてスタートしたが、現在では首都圏や関西圏で知名度の高い個性を持ったスーパーチェーンになっている。
本書は、その創業者である石井良明氏が、小田急線・成城学園前駅の駅前にあった両親の経営する果物をメインにした石井食料品店の跡を継ぎ、食品スーパーとして誰もが注目する企業に育ててきた歴史を語ったものである。
資金、看板、人材もない一介の青果店を、激烈な競争の中にあるスーパーマーケット業界で「成城石井」ブランドに育て上げた軌跡が、きわめて具体的に語られている。かつて、大手商社出身で作家でもあった安土敏氏がサミットストアの創業の歴史を語ったことがあるが、それに匹敵する著作ともいえる。
その原点は、成城学園前という特殊なエリアにある。そして一般的には高級住宅街としてイメージされるエリアを、さすが石井氏は田園調布や松濤とは異なる住民特性をつかんでいた。
「はじめに」で石井氏はブランドについて語る。
「ひとつのブランドとして評価されるようになった成城石井ですが、わたくし自身ブランドをつくろうという気持ちはまったくありませんでした。どちらかといえば、お客様のためにやってきたことが積み重なり、結果としてブランドになってしまったという方が実情に近いかもしれません。」
本書を読んで、あえて私なりにまとめるなら、成功の要因は次の5点である。
1.品質の良い商品を徹底して探し出し、経営者自らの目と舌で評価をしてきた。
2.人脈を大事にし、事業経営の要所要所に外部から人材を登用した。
3.専門性を要求されるワインの評価、店舗設計などは、その道のプロをコンサルタントとして活用した。
4.財務システムを独自に構築し、経営指標を徹底して分析し経営に活かした。
5.経営者自ら、引退した最後の最後まで社員や取引先と一体になって自己研さんの学習に努めた。
石井氏は、自らの体調の問題もあり2004年に経営を引退し、以後母校である慶応大学の「メンター三田会奨学金」の代表を務められている。
流通業に限らず、新たな視点から商品やサービスの高い品質を目指すベンチャー企業や新規事業のリーダーにとって、さまざまな知恵を授けられる著作といえる。
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