しぶとく自分を生き抜く!

JR南武線を時々利用する。武蔵溝ノ口と武蔵小杉の間だ。南武線は川崎と立川を結ぶ地味な線で、とくに話題になったり華やかな場所はない。最近では武蔵小杉駅横須賀線湘南ライナー停車駅になったことで高層マンションラッシュになっているのが注目だろうか。川崎の先にはかつての京浜工業地帯が控えていたり、沿線にはNECや富士通などの事業所がある。
この南武線で、いつも通過する駅に武蔵新城駅がある。とくに降りる理由はないが、夕刻に「串揚げ・でんがな」に行ってみたくて降りてみた。レトロな感じの店で大阪名物の串揚げを食した後に駅近くの文教堂書店に寄る。ここも最近では少なくなった本の紙の匂いがプーンとにおう、場末感覚が残る書店だった。
話題の書である『原発ホワイトアウト』を購入するつもりであったが、『しぶとく自分を生き抜く!』が目に留まる。経営コンサルタント小宮一慶さんとエッセイストの吉永みち子さんという異色の組み合わせの対談が新鮮で、思わず衝動買いをしてしまう。

しぶとく自分を生き抜く!

しぶとく自分を生き抜く!

そこで語られる、かつての競馬記者であった吉永さんの今までの生き様には、たいへん刺激を受けた。東京外国語大学インドネシア語学科から競馬新聞の「勝馬」の記者になるくだりなどは、しぶとくあきらめない吉永さんの生き方が確立したスタートであったのかもしれない。

わたしの場合、女は四年制大学に行かせてもらえない、行っても働き口がないという時代で、運よく国立大学は卒業できたものの、そこから先は難渋しました。競馬新聞の記者になりたかったのでが、女の記者はもちろん一人もいなかったし、競馬なんて女がやるものでも見るものでもないとみんなが思っていました。そんな中で「勝馬(かちうま)」という競馬専門紙に一生懸命頼み込んで入ることが出来ました。でも、そこに決まるまでの大変さといったら、並大抵ではありません。
公募があるわけではなく、知り合いがいるわけではない。仕方がないので友達5人ぐらいに、知り合いを5人ずつ紹介してもらい、さらにまた知り合いの輪を転がしていけばいつか関係者に辿り着けるのではないかと、ローラー作戦を画策。友達の高校時代の同級生の勤め先と取引している某製本会社の社長さんが馬主さんで、「勝馬」の役員とゴルフ仲間だとわかりました。「これだ!」と思ってそのルートからアタックして、とうとう念願かなって入社となったのです。

吉永さんは昭和25年生まれで埼玉県川口市出身、小宮さんは昭和32年生まれで大阪府堺市出身。おふたりとも東京と大阪の郊外の住宅地の平凡な家庭で育ち、高度成長を実感して育った共通の経験を持っているということが意気投合した要因だと思われる。武蔵新城という川口や堺に似た川崎の書店で目に留まったのも何かの縁かもしれない。なんとなくホッとさせられる対談本であった。