人生は勉強より「世渡り力」だ!

東京の墨田区向島は親戚がいるので、子供のころによく出かけた。その向島が生んだ世界のスーパースターで「痛くない注射針」や「携帯電話用リチウムイオン電池ケース」の開発で有名な岡野雅行さんの本。落語を聞いているような調子で一気に読んでしまう。
人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)

自分の仕事は安売りしちゃダメなんだ。そのためには、人にできないことをやらなきゃな。誰でもできることなんてのは、相手の言い値でやるしかなくなるんだよ。できないことだから、値段を自分でつけられるんだ。

値決めの方法についてのくだりは、へたなマーケティングの教科書より実用性が高い。
そして、メザシの土光さんについてのくだりは、思わず笑ってしまう。

若い人は知らないかもしれないけど、経団連の会長をしていた土光敏夫さんという人がいた。その土光さんは「メザシの土光さん」って呼ばれてたんだ。NHKが、80歳を過ぎてもなお、行革に執念を燃やす土光さんの特集をやったことがある。その時、夕食の膳に並んでいたのがメザシだった。
視聴者に与えたインパクトは大きかったと思うね。贅沢三昧をしても不思議でない財界を引っ張る立場の人が、家ではそこまで質素な食事をしている。「あんなに偉くなっても、庶民感覚を忘れない土光さんは、たいしたもんだ!」と拍手を送ったんだよ。
タネあかしをしようか?俺、土光家にメザシをおさめてた魚屋と知り合って、聞いたんだ。
あのメザシ、一匹400円だ。30年も前だから、当時の400円といやあ、けっこうな値段だよ。ひと山いくらのメザシとはわけが違ってたんだな。
「メザシの土光さん」なら、行革のリーダーにふさわしいというイメージが定着したら、最高の演出ってもんよ。
演出もできないようじゃ、大きくなれないね。

世の中、勉強本ブームだ。やれ勝間だ。やれMBAだ。やれレバレッジだ……
それもいいけど、岡野本も爽快だ。