企画書・復刻版

昨日訪れた寺の和尚は、いつ行っても広大な寺の周りを草刈機で草を刈っているか、ユンボに乗って整地をしているか、掃除をしている。ただひとり黙々と。本人も袈裟を着ているときより作業着を着ている日のほうが圧倒的に多いといっていた。墓も少なく裕福な寺ではないので、全て自分がやらなければならないと嘆いていたが、実はそれが好きだというのがお顔に現れていた。今まで、おかしなお坊さんだなと思っていたが、この草刈も修行なのかもしれないと思った。本人はそうは語っていないけれど。

素人が好きだ。それは無知無能であることを居直ったり、玄人に対してのコンプレックスから大仰に騒ぎまわるだけの素人のことではない。言葉のとおり「素(もと)の人」ということで、この世界を構成しているひとりひとりの、静かだけどいきいきと、賑やかだけど単調に生活している普通の人たちのことだ。

1981年に出版され、1997年に復刻版が出版された橘川幸夫氏の『企画書・復刻版(1999年のためのコンセプトノート)』(メタ・ブレーン)の冒頭の一節だ。パソコンもインターネットもない時代に、すでにその登場を予言して話題になった本だ。80年代前半に私もこの本から多くのことを学んだ。20数年たった今読み返してみても、今の時代を語っているのではないかと言う錯覚におそわれるほどの分析力だ。
寺の住職はいきいきと単調に生活している「素の人」だと思った。この寺に墓を持てたことを誇らしく感じた。