アメリカズカップ:勝者の条件

11月19日、165年の歴史を持つ国際ヨットレースのアメリカズカップの予選シリーズ1日目が福岡で開催された。
予選シリーズがアジアで、日本で開催されたのは今回が初めてである。
https://www.americascup.com/en/home.html
レースの模様は、テレビ東京で放映された。出場6チームの中に日本チームが入っている。
1日3レース行われたが、日本チームは第2レースで1位となったものの、第3レースではトラブルもあり惜しくも6位となった。
2013年の10月に個人ブログの「ウイズダムダイアリー」でアメリカズカップのことを取り上げた。
それに合わせて、愛読書の一つであるデニス・コナーの『勝者の条件』も紹介した。
下記に再掲する。

******************
2013年10月24日 ウイズダムダイアリー
9月末に世界最高峰のヨットレースであるアメリカスカップ第34回大会がサンフランシスコで開催され、米国のオラクルチームUSAがエミレーツチーム・ニュージーランドを破り優勝した。先日その模様がテレビで放映されたのを見た。
アメリカスカップというとデニスコナーを思いだす。1983年大会にオーストラリア艇に敗れ132年間守ってきた優勝杯を逃すという屈辱を受け、4年後の大会でスターズ&ストライプ号の艇長として再挑戦し米国に優勝杯を持ち帰った人物である。
1980年代後半、私は個人として二人乗りのディンギー東京湾で楽しんでいた。若洲、稲毛、八景島に週末になると出かけていた。1990年に東京の中央区民体育大会に出場し二人乗りディンギーで銅メダルをもらった。もし金メダルだったら国体参加への道が開けていた。
そんなこともありアメリカスカップやデニスコナーには当時関心を持っていた。1991年にデニスコナーの著作である『勝者の条件(デニスコナーの挑戦哲学)』が田辺英蔵さんの翻訳でダイヤモンド社から発刊された。何度も何度も繰り返し読んだ。今でも愛読書の一つになっている。

勝者の条件―デニス・コナーの挑戦の哲学
作者: デニスコナー,田辺英蔵,金子宣子
出版社/メーカー: ダイヤモンド社
発売日: 1991/04 メディア: 単行本

ちなみに翻訳者の田辺英蔵さんには、約30年前の1987年に私が主催したあるセミナーでの講師をお願いし、何度かお会いしている。立派なひげをたたえた、品格のあるヨットマンであった。後楽園球場の経営に携わっておられた。
デニスコナーは同著の序章で次のように語っている。
アメリカスカップは、いまや単なるヨットレースではなくなっている。帆走自体に欠ける労力は五割程度で、あとの五割は事前準備、ヨットの設計、各種の計画、資金集め、委員会の運営、基礎訓練、チーム作り、物資の調達、全体の管理などに費やされる。つまり、アメリカスカップに勝つには、野心的な大事業を成功に導くためのあらゆる要素がからんでくるのだ。
この『勝者の条件』に描かれていることは大型ヨットの国際レースでいかに勝利に導いたかという経験談がベースになっているが、それはそのまま企業の新規事業や、大型イベントの成功要件に通じるものだ。
事業成功のヒントがちりばめられているが、なかでも印象深いのが、
・チームメンバーの選定方法
・リストを作って実行せよ
の二つでである。

●チームメンバー選定方法
第10章でこのことが語られる。
要約すると次のようなことがチームメンバー選定の条件である。
1)そのチームに入りたい、そのチームで見事な働きををしたい、と心から願っているものでなければならない。
2)物事がうまくいかなかった場合でも、あきらめずに目的を追求する覇気と忍耐力。また、成功の道を歩んでいても、人間性を失わず、したがって尊大になることのない人物だ。
3)経歴に「とぎれ」がある者。出世の階段を駆け上る道を閉ざすことになっても、本当にやりたいことをする勇気がある人物。メンバーの持つ多様な「とぎれ」は、予想外の事態が起こった時に、優れた対応力や柔軟性を発揮するものだ。

●リストを作って実行せよ
コナーは語る。
私はリストで生きている。
自分のリストの大半は憶えているから、すべてをメモしているわけではない。だが、誰かにまかせる場合はぜひともリストを文字にして書いてほしいと考えている。
リストに従えば、レースに勝てる。
リストに従えば、会社を経営できる。
一度に千の仕事をする人は、実際には千の仕事を同時に処理するわけではない。実は極度に早いスピードで、順次片づけているのだ。一つが終われば、リストにある次の項目がタイミングよく飛び出してくるシステムが出来ている。
翻訳者の田辺英蔵さんは訳者あとがきで次のように語る。
戦後の平和な期間に日本の若者から「卓越する願望」が失われた。若者が卓越性に対する身を焦がすような願望を失ったら、その民族に将来はない。…彼らの多くは、その願望を手に入れるための努力を惜しむ。忍耐と自己規制と精進の労力を厭う。あるいは手っ取り早く安直に目的を達成する近道を選ぶ。…この本はこの風潮に対する強烈な反論である。コナーが述べているのは、徹頭徹尾、闘いの人生である。水も漏らさぬ準備と点検と自己規制、そして努力、努力、努力の日々のことである。昼は長く、夜は短く。
企業や組織の新規事業開発やイノベーションの組織開発のコンサルティングを仕事としている者としてデニスコナーの「勝者の条件」は、もっとも大事な私の座右の書の一つになっている。
******************