山本周五郎のことば

かあちゃん 1955年『オール読物』】山本周五郎のことば (新潮新書)
「貧乏人だって親の気持ちに変わりはありゃしない。もしできるなら、どんなことだってしてやりたい、できるなら、……身の皮を剥いでも子に何かしてやりたいのが親の情だよ、それができない親の辛い気持ちを、おまえさんいちどでも察してあげたことがあるのかい」
▼女手で五人の子を育て、大工をやっている長男の朋輩が入牢中にその更正の資金を一家挙げて作ったお勝のもとに忍び込んだ盗人が、一家の無償の奉仕に心を打たれ改心する。その男が「生みの親にもこんなにされたこたあなかった」と漏らしたことで、お勝が、まず、「あたしは親を悪く云う人間は大嫌いだ」と一喝を食らわした後のセリフである。周五郎は「ただ一行のために、しばしば一編の小説を構想した」と語り、「お勝のこの言葉を書きたくて『かあちゃん』を書いた」という。

宮崎哲弥氏をして、「山本周五郎が読み継がれる限り、日本人はまだ大丈夫。私はそう信じている。」と言わしめた作家、山本周五郎。日本人が危うくなってきたこの平成20年目の年の始めに、山本周五郎のことばを噛みしめておきたい。