教育で起業家を作ることは可能か

以前、「わがまま論」について語ったことがあるが、この「良い意味での」「わがまま」はデザイナーや一流の野球選手だけでなく起業家にとっても必須の条件である。日本ベンチャー学会の会報を見ていたら、早大ビジネススクールの柳孝一教授がアメリカのバブソン大学アントレプレヌールシップ教育者セミナーの紹介をされていた。バブソン大学は起業家教育に最も熱心な大学のひとつで、ジェフリー・A・ティモンズ教授は起業家教育論の講演で二つの映画を取り上げたという。
ひとつは「今を生きる」で、もうひとつは「オクトーバースカイ(遠い空の向こうに)」だ。前者の映画は高校教師の物語で「既成概念や権威を否定しないと創造性は生まれない」ということを映画で伝えたいとティモシー教授は訴える。いまを生きる [DVD]
また後者の映画では、子供の頃の夢やロマンが、アントレプルヌールシップ(起業家精神)の原点になりうるということを表現しているのだという。
起業家を多く輩出するアメリカでも、その起業家創出が頭打ちにあるという危機感をあるようだ。昨年の12月に「イノベート・アメリカ」と題されたレポートが発表された。中国やインドの台頭に刺激を受けたアメリカが産学官労のリーダー400人を集めて15ヶ月かけて作成したレポートで、プロジェクトリーダーがIBMのCEOであるパルミサーノ氏であることから「パルミサーノ・レポート」とも言われている。
そのレポートでは、アメリカは事業創造のための「イノベーション」にすべての価値を集約させることを最重要課題に掲げ、そのために小学校の教室から大学キャンパス、さらには企業や官庁に至るまでイノベーション教育を徹底すべしと刺激的な提言を行っている。
日本で作成された日本のためのレポートではない。アントレプルヌール先進国のアメリカでの話だ。この内容は日本でこそ当てはまるものだと思う。日本はのんびりしすぎているかもしれない。
「教育で起業家を作ることは可能か?」と問われても、日本ではその経験がないのだから正解というのはない。可能かどうか議論している暇があったら、今すぐ教育を実行することが大事だと思う。そこから新たなものが生まれてくるのだと考える。仮説を立てることはもちろん重要だが、実行しなければ答えは出ない。すなわち、教育のイノベーションが必要だということだ。
(備考)パルミサーノ・レポートについては日本政策投資銀行の下記資料が参考になる。
http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/industry_report/r14.pdf