永里亜紗乃、岩渕真奈と、かつてのドゥンガの言葉

永里亜紗乃岩渕真奈と、かつてのドゥンガの言葉
2019FIFA女子ワールドカップで日本のなでしこジャパンはオランダに敗れ、フランスの地を去ることになった。
ワールドカップでのなでしこの戦いを振り返って、NHKの解説を担当した永里亜紗乃さん(2015カナダワールドカップ準優勝メンバー)と、日本のエースとして活躍した岩淵真奈選手の2人のコメントに注目した。
たいへん厳しい眼と、強い危機感を持っている。
この経験をバネに来年の東京五輪で頑張ろうなどという悠長なことを言っていられないという気持ちが、この二人から伝わってくる。
暗に、現監督や協会への不満の声ともとれるものである。
永里亜紗乃さんのコメント
勝つチャンスは十分ある相手と内容だっただけに、ベスト16敗退という結果はとても残念です。これが今の日本女子代表の実力と認めざるを得ません。世界一を勝ち取った8年前、惜しくも準優勝で涙をのんだ4年前とは大きく立ち位置が異なり、結果だけを切り取っても危機感は募るばかりです。
常に日本の課題として指摘されてきたフィジカルや身体能力ですが、改善するための手は打てているのでしょうか。私は大会期間中、イングランドのトレーニングを取材する機会がありました。主に非公開練習のため目で確認できたのは冒頭15分のウォーミングアップのみでしたが、彼女たちは最初のアジリティトレーニングからフルスピードでした。次に重りをつけた状態でスプリントを行い、最後は重りを外した状態で約30メートルを全力疾走し、フィジカルトレーニング並みの負荷をかけていたのです。
 日本の場合、ゆっくりとしたランニングやストレッチで体をほぐすことが多いはず。集団で行う和気あいあいとしたウォーミングアップが一概に悪いとは言えませんが、こんなところにも明確な違いが見えたのです。スプリントの質・量の差はそのまま日常になる。もともと体格に恵まれている選手たちとこれだけトレーニングに差があれば、その差が縮まるはずはありません。
 日本人だからフィジカルが劣っていても仕方ない、という表現で片付けてはいけません。海外にも体の小さい選手、足の遅い選手はいます。でも国の代表に選ばれる選手たちは必ず努力し、トレーニングで改善を図っているのです。日本も最初から諦めてはいけないですし、起きている事象を課題として捉えて改善策を練るべきではないでしょうか。それができなければ世界との差は開く一方です。
オランダ戦後、涙を流している選手がいました。ですが、泣くのは何か後悔があるからではないでしょうか。私は現役時代も今も、泣かないために準備し、努力してきました。涙をすべて美談で終わらせてはいけません。
平日の朝4時に起床してなでしこジャパンを応援してくれた人がどれだけいたのか。今日や明日の各種メディアでどれだけ報じられるのか。取り巻く環境の変化を感じ、受け止め、次のステージへ進まなければいけません。
THE ANSWER 2019年6月26日
岩渕真奈さんのコメント
11年、15年に続いて3大会連続出場となったFW岩渕真奈(26)は
「これまでの大会と比べて、長い時間ピッチに立って個人的に充実はしていた。ただ、自分にはチームを勝たせる力はなかったし、全てにおいて物足りない。やっぱり悔しいなと思う大会だった」と総括。
その上で「16強で終わってしまったが、東京五輪に出場できるのは12カ国。自分たちは予選を免除されるが、その予選を勝ち抜いてきた強豪が出てくる大会ですし、一からというとネガティブに聞こえちゃうかも知れないですが、個人的な意見として全てを見直さないといけないと思っている」と現状に危機感を募らせた。
スポーツニッポン 2019年6月27日
かつてブラジルから日本のジュビロ磐田にやってきたドゥンガ氏が1998年に日本での経験をもとに著した本『セレソン』(NHK出版)で、手厳しくサッカー男子日本チームを評している。
これらは、今また、なでしこジャパンにも見事に当てはまるように思える。
1)日本チームはすべきことをし尽していない。
○勝つべき試合を落としたり、相手は弱いから簡単に勝つだろうという感覚が残っている。今までの試合の分析を徹底的にすべきだ。
2)日本チームはコミュニケーション不足
○ピッチ上で怒鳴ったりするのは敬意に反するという意識があるようだ。試合に負けたら敬意も何もない。注意をしないことで負けたら二人の関係は友人のそれですらない。
3)日本チームは間違いを見つけてもなかなか変えようとしない。
○トライしてだめなら、別の方法を考えるべきだ。
4)外部招へいでポリシーがしっかりしていない
○これまでに招聘した海外からの指導者や選手で問題のあった人もいるかもしれないが、根本は呼ぶ側のポリシーがしっかりしていないケースがほとんどだ。専門家畏敬主義ですべてお任せにしたり、呼ぶ側が過剰に口出ししたりといった事があってはならない。呼んでくるべきは、選手に教育のできる監督、チームに貢献できる人材、つまり日本選手やスタッフの模範になる人間でなければならない。
5)日本人はほんの少しのことを覚えると、もうすべて理解したような気になってしまうことがままある。
○サッカーはつねに学習を続けなければうまくならない。絶対に立ち止まることは許されない。
6)日本人は謙虚さが足りない
○ワールドカップのレベルとアジアのレベルは違う。アジアで代表に選ばれるのと南米で代表に選ばれるのとではそのプレッシャーは大きく違う。たかがオリンピックでブラジルに1勝したということを語り草にして喜んでいるような陳腐なメンタリティは捨てたほうがいい。
7)キャプテンは医者である
○キャプテンというのは監督と選手の間に立つつなぎ役ではあるが、伝達係ではない。選手たちの雰囲気をつかまなければならない。本当の医者はまず予防に全力を尽くすものだ。キャプテンがチームの雰囲気を感じ取らなければならないというのはそういうことだ。
8)日本の選手には気合が足りない。
ジュビロ磐田でもっとも難しいと感じたのは、若い選手たちに、絶対に勝ちたいという怒りに似た闘争心をいつも百パーセント発揮させることだった。
9)日本の選手は自分のことばかり気にしている。
○周囲の人に注意を払わなければいけない。サッカーはサポートしあうスポーツだ。
10)基礎があるから高度なプレーが生まれる
○日本チームに勝ち負けの波が激しいのは、基礎が出来ていないからだ。日本の試合はあまりにミスパスが多すぎる。
これはサッカーの話ということで、終わらすことはできない。
日本の経済、企業経営、政治、その他社会のすべての分野において、日本の劣化現象が起こっているからだ。
岩淵選手の「すべてを見直さなければいけない」という言葉は重い。